ラグビーの試合を観戦していると、「マーク!」という大きな叫び声を耳にすることはありませんか?あるいは、各国の代表選手たちの胸に輝く、美しい花や動物の「マーク(エンブレム)」に心を奪われた経験がある方も多いでしょう。
「ラグビーマーク」という言葉には、実は大きく分けて3つの意味が隠されています。1つ目は、試合の流れを大きく変える特別なプレーのコール。2つ目は、ディフェンス時に相手選手を見張る役割のこと。そして3つ目は、チームの誇りと歴史を象徴するエンブレムそのものです。
この3つの「マーク」を深く理解することで、ラグビーというスポーツの奥深さが一気に見えてきます。ルール上のテクニックから、各国のジャージに秘められた感動的なエピソードまで、ラグビーにまつわる「マーク」の全てを、やさしく丁寧に解説していきます。
ラグビーマーク(フェアキャッチ)の基礎知識とルール

ラグビーの試合中、守備側の選手が自陣深くでボールをキャッチした瞬間に、手を挙げて「マーク!」と叫ぶシーンを見たことがあるでしょうか。これは、相手の攻撃を断ち切り、自分たちに有利な状況を作り出すための非常に重要なプレーです。
正式名称は「フェアキャッチ」とも呼ばれますが、選手が発するコールそのものが「マーク」であるため、一般的にはこちらの呼び名で親しまれています。まずは、このルールの基本的な定義と、どのような状況で認められるのかを詳しく見ていきましょう。
「マーク」と叫ぶ勇気:フェアキャッチの定義とは
ラグビーにおける「マーク(フェアキャッチ)」とは、相手チームが蹴ったボールを、自陣の22メートルラインの内側(インゴールを含む)で、地面につく前に直接キャッチした選手が「マーク!」とコールすることで成立するプレーです。
このプレーが成立すると、レフリーは笛を吹き、試合は一時中断されます。そして、マークをコールした地点から、そのチームのフリーキックとして試合が再開されます。つまり、相手の猛攻を受けている大ピンチの状況を、ひとまずリセットして自分たちのボールにできる、非常に強力な守備手段なのです。
特に、上空高く蹴り上げられたハイパントキャッチの場面でよく使われます。落下してくるボールに対して相手選手が猛スピードで突っ込んでくる中、空中でボールを確保するのは恐怖を伴います。しかし、そこで勇気を持って「マーク」を宣言することで、タックルを受けることなく安全にプレーを止める権利が得られるのです。
適用される条件:22メートルラインとダイレクトキャッチ
「マーク」はいつでもどこでも使えるわけではありません。認められるためには、いくつかの厳格な条件をクリアする必要があります。最も重要なのは「場所」です。自陣の22メートルラインの内側、またはインゴールエリア内でなければなりません。22メートルライン上であれば認められますが、少しでもラインの外に出ていれば成立しません。
次に重要なのが「ボールの状態」です。相手がキックしたボールを、一度も地面にバウンドさせることなく「ダイレクト」にキャッチする必要があります。地面に一度でもついてしまったボールや、味方や相手選手に当たって跳ね返ったボールをキャッチしても、マークは認められません。
さらに、忘れてはならないのが「相手のキックの種類」です。通常のプレー中のキックであれば適用されますが、「キックオフ」や、得点後の「再開のキック(リスタートキック)」の場合は、たとえ自陣22メートル内でダイレクトキャッチしてもマークをコールすることはできません。この細かい違いは、観戦初心者が見落としがちなポイントです。
審判のシグナルと試合再開の方法
選手が正しい条件で「マーク!」と叫び、ボールを確保したと判断された場合、レフリーは即座に短い笛を吹きます。そして、片方の腕を上げてフリーキックのジェスチャーを行います。古いルールや一部の解説では、かかとで地面にマークをつける動作が必要だった時代もありましたが、現代ラグビーでは明確なコールとキャッチがあれば成立します。
試合再開はフリーキックとなります。マークをコールした本人がキッカーとなり、相手選手はそこから10メートル下がらなければなりません。フリーキックにはいくつかの選択肢があります。最も一般的なのは、タッチラインの外へ蹴り出す「タッチキック」です。フリーキックからのタッチキックは、蹴り出した地点での相手ボールラインアウトにはなりますが、陣地を大きく挽回できるため、安全策として多用されます。
また、意表を突いてボールを軽く蹴って自分で持ち出す「タップキック」からの速攻を選ぶことも可能です。相手のディフェンスが整っていない一瞬の隙を突き、ピンチを一気にチャンスに変えるカウンターアタックを仕掛けることも、マークの後の重要な戦術の一つです。
なぜ「マーク」が存在するのか?選手の安全と戦術
なぜラグビーにはこのようなルールが存在するのでしょうか。最大の理由は「選手の安全確保」です。ラグビーにおいて、空中のボールを競り合うプレーは非常に危険が伴います。特に守備側の選手は、ボールを見上げている無防備な状態で、勢いよく走り込んでくる相手選手のタックルを受ける可能性があります。
もし「マーク」というルールがなければ、守備側の選手は怪我のリスクを恐れてボールを取りに行けず、試合が大味になってしまうかもしれません。「ここでキャッチして叫べば守られる」という保証があるからこそ、選手は勇気を持って空中のボールに飛び込むことができるのです。
また、戦術的な意味合いも大きいです。ラグビーは「陣取り合戦」の側面が強いため、自陣深くに押し込まれ続けることは失点に直結します。相手の攻撃の流れを合法的に断ち切り、時間を使い、陣地を回復するための手段として、マークは守備戦術の要となっています。単なる逃げの一手ではなく、計算された高度なプレーなのです。
ピンチをチャンスに変える「マーク」の戦術的メリット

前項ではルールの仕組みを解説しましたが、実際の試合において選手たちはどのように「マーク」を活用しているのでしょうか。単にボールを安全に捕るだけではありません。そこには、試合の流れを読む高度な判断と、チーム全体を救うための戦略が込められています。
トップレベルの試合になればなるほど、このマークの使い方が勝敗を分けることがあります。ここでは、選手たちがマークを選択することで得られる具体的なメリットについて、さらに深掘りしていきましょう。
相手の猛攻を断ち切る「時間」を作る
ラグビーの試合において、攻め込まれている側は常に「時間」と「余裕」を奪われています。相手のアタックが連続し、ディフェンスラインが乱れ、息も絶え絶えになっている状況で、相手スタンドオフが裏のスペースへキックを蹴り込んでくる。まさに絶体絶命の瞬間です。
このような場面でフルバックやウイングが「マーク」を成功させると、試合の時計は止まりませんが、プレーの流れは一度完全に停止します。この「数秒から数十秒の間」が、守備側にとっては砂漠のオアシスのような休息となります。乱れた呼吸を整え、バラバラになったディフェンスラインを再構築することができるからです。
心理的な効果も絶大です。「あと少しでトライが取れる」と勢いづいていた攻撃側に対し、「マーク」による中断は冷や水を浴びせるような効果があります。スタジアムの空気も一変し、守備側のチームに「よく守った!」というポジティブな雰囲気が生まれます。この「間」を作ることこそが、最大のメリットと言えるでしょう。
カウンターアタックへの起点としての判断
「マーク」=「守備的なプレー」と思われがちですが、実は攻撃的な選択肢としても機能します。これを「クイックリスタート」と呼びます。マークをコールした直後、相手の選手たちは「やれやれ、一度止まったか」と油断して足を止めることがあります。また、ルール上10メートル下がらなければならないため、一時的に背走することになります。
攻撃的なセンスに優れた選手は、この一瞬の隙を見逃しません。レフリーが笛を吹いた直後に、素早くボールをチョンと蹴って自らキャッチし、前進を開始します。相手ディフェンスは後退中でタックルの体勢が整っていないため、一気に数十メートルをゲイン(前進)できる可能性があるのです。
特に、試合終盤で点差を追いかけている状況では、ゆっくりとタッチに蹴り出している暇はありません。リスクを冒してでも攻撃権を維持し、トライを取りに行くために、あえてマークからの速攻を選ぶ。そんなドラマチックな展開を生むきっかけにもなり得るのです。
タッチキックで陣地を回復する「安牌」の選択
とはいえ、最も堅実で選ばれる確率が高いのは、やはりタッチキックによる陣地回復です。自陣22メートル内から蹴り出されたボールは、ノーバウンドでタッチラインを割っても、その出た地点から相手ボールのラインアウトとなります。しかし、マーク(フリーキック)からのタッチキックは、通常のインプレー中のキックとは少し意味合いが異なります。
フリーキックからのタッチキックは、確実に陣地を挽回できる手段です。ペナルティキックとは違い、蹴り出した地点の相手ボールラインアウトにはなりますが、自陣ゴール前という危険地帯から脱出し、ハーフウェイライン付近まで戦場を押し戻すことができます。
また、スクラムハーフやスタンドオフなどのキッカーにとっては、相手のプレッシャーを受けずに落ち着いて蹴ることができる貴重な機会でもあります。風向きや距離を計算し、最大限に陣地を稼ぐキックを蹴ることで、チーム全体を楽にすることができます。派手さはありませんが、勝利のためには欠かせない「安牌(安全策)」の選択なのです。
ディフェンス用語としての「マーク」:トイメンとの勝負

ここまでは「ルールとしてのマーク」について解説してきましたが、ラグビーの現場ではもう一つ、頻繁に使われる「マーク」があります。それはディフェンスシステムにおける用語としてのマークです。
「誰が誰をマークするのか」「マークがズレているぞ!」といったコーチの声を聞いたことはないでしょうか。これは「防御対象」や「役割分担」を意味します。ラグビーのディフェンスは組織的ですが、最終的には「個対個」の責任が問われます。ここでは、守備戦術におけるマークの重要性について解説します。
「ノミネート」の声出しとマークの確認
ラグビーのディフェンスにおいて基本となるのが、「自分の目の前の敵は自分で止める」という原則です。これを「トイメン(対面)」と呼びますが、試合中は選手が流動的に動くため、誰が誰を担当するのかが刻一刻と変化します。そこで重要になるのが「ノミネート」です。
守備側の選手は、自分がタックルに入るべき相手選手を指差し、「俺が見る!」「10番、俺!」と大声で宣言します。これを「ノミネートする」あるいは「マークを確認する」と言います。この声掛けがないと、一人の攻撃選手に対して二人の守備選手がいってしまったり、逆にお見合いをして誰もタックルにいかないという致命的なミスが起こります。
隣の選手と連携し、「内側は任せろ、外はお前が見ろ」と常にコミュニケーションを取り続けること。これが「マークを受け渡す」という高度な連携プレーに繋がります。強豪チームほど、このマークの確認作業が徹底されており、試合中は絶え間なく声が飛び交っているのです。
マークを外される「ミスマッチ」の危険性
攻撃側のチームは、守備側の「マーク」を混乱させるために様々な作戦を練ってきます。その代表的な狙いが「ミスマッチ」を作ることです。ミスマッチとは、スピードや体格差がありすぎて、守備側が不利になる組み合わせのことを指します。
例えば、足の速いバックスの選手が、体重はあるが足の遅いフォワードの選手の場所を攻めるようなケースです。守備側としては、「あいつには俺がマークにつくべきではない」と瞬時に判断し、マークする相手を入れ替える(チェンジする)必要があります。
しかし、攻撃側の巧みなパス回しやランニングコースによって、このマークの受け渡しが間に合わなくなると、「マークを外された」状態になります。これは守備崩壊の始まりであり、トライを奪われる最大の要因となります。いかにミスマッチを作らせず、適切な選手が適切な相手をマークし続けられるか。それがディフェンスコーチの腕の見せ所でもあります。
マンツーマンとゾーンディフェンスにおけるマークの違い
ディフェンスのシステムには、大きく分けて「マンツーマン」と「ゾーン」の考え方があります。マンツーマンディフェンスは、特定の選手に特定のマーカーが張り付くスタイルです。「お前はあのエースを試合中ずっとマークしろ」という指示が出ることもあります。責任が明確な分、個人の能力差が出やすいのが特徴です。
一方、現代ラグビーの主流であるゾーンディフェンス(ドリフトディフェンスなど)では、マークの考え方が少し異なります。「人」ではなく「スペース」を守る意識が強いため、攻撃側がボールを動かすのに合わせて、守備側もスライドしながらマークする対象を次々と受け渡していきます。
このシステムでは、「自分のマーク」という概念が流動的になります。「今は俺のマークだが、ボールが外に出たら隣の選手のマークになる」という共通認識が必要です。この受け渡しの継ぎ目(シーム)こそが守備の弱点になりやすいため、ここでもやはり「マーク!」の声掛けが生命線となるのです。
ワンポイント用語解説:マークが甘い
解説者が「マークが甘いですね」と言うときは、ディフェンスの選手が相手選手との距離を詰めきれていなかったり、タックルのポジション取りが悪かったりすることを指します。逆に「マークがきつい」とは、相手に全く自由を与えない厳しいプレッシャーをかけている状態を褒める言葉です。
世界の強豪国が誇る「チームマーク(エンブレム)」の物語

3つ目の「マーク」は、各国の代表チームのジャージに縫い付けられたエンブレムです。ラグビーでは、国旗そのものよりも、このチームエンブレム(愛称)がチームのアイデンティティとして重視される傾向があります。
「ブレイブ・ブロッサムズ」や「オールブラックス」といった愛称は、すべてこのマークに由来しています。なぜその植物や動物が選ばれたのか。そこには、その国の歴史や文化、そしてラグビーに対する熱い想いが込められています。主要な強豪国のマークの由来を紐解いていきましょう。
日本代表:3つの桜「ブレイブ・ブロッサムズ」の進化
我らが日本代表の胸に輝くのは「桜」のマークです。正式名称は「ラグビー日本代表エンブレム」ですが、海外からは「チェリー・ブロッサムズ」、そして近年の躍進により「ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」と呼ばれるようになりました。
実はこの桜のマーク、昔と今ではデザインが異なっていたことをご存知でしょうか。かつては「つぼみ」「半開き」「満開」という3種類の異なる状態の桜が並んでいました。これは「関東」「関西」「九州」という日本のラグビー主要3地域を表すと同時に、「いつか世界の強豪と渡り合えるようになった時、全ての桜を満開にしよう」という誓いが込められていたと言われています。
そして1952年、オックスフォード大学との試合を機に、その実力が認められたとして、現在の「3つの満開の桜」のデザインに変更されました。桜は散り際が潔く美しいことから、武士道精神とも重ね合わされます。「正々堂々と戦い、散るときは美しく」という精神が、このマークには宿っているのです。
ニュージーランド代表:闇夜を照らす「シルバー・ファーン」
世界最強の軍団、ニュージーランド代表「オールブラックス」。彼らの漆黒のジャージに浮かび上がる白い葉のマークは「シルバー・ファーン(銀シダ)」と呼ばれています。これはニュージーランド固有のシダ植物で、同国の国章にも使われる国民的なシンボルです。
シルバー・ファーンの葉の裏側は、鮮やかな銀白色をしています。かつて先住民族マオリの人々は、月明かりのない夜の森を移動する際、この葉を裏返して地面に置くことで、後から来る仲間のための道しるべにしたという伝説があります。
このことから、シルバー・ファーンは「前へと進むための道しるべ」「誇り高きガイド」という意味を持つようになりました。ラグビーにおいても、常に世界の最先端を走り、他国をリードする存在であり続けるオールブラックスにふさわしいマークと言えるでしょう。
イングランド代表:薔薇戦争の歴史を背負う「レッド・ローズ」
ラグビー発祥の地、イングランド代表の白いジャージに映えるのは、真紅のバラ「レッド・ローズ」です。なぜバラなのかについては諸説ありますが、最も有力なのは15世紀に起きた内乱「薔薇戦争」に由来するという説です。
当時、王位継承権を争ったランカスター家が「赤いバラ」、ヨーク家が「白いバラ」を紋章としていました。最終的にランカスター家の血を引くヘンリー7世が勝利し、両家を統合したテューダー朝を開いたことで、赤いバラがイングランド王室の象徴として定着したとされています。
また、ラグビーという競技が生まれたパブリックスクール「ラグビー校」のエンブレムが赤いバラであったことも関係していると言われています。いずれにせよ、このマークはイングランドの長い歴史と伝統、そして王室の威厳を象徴するものであり、選手たちはその重みを胸に戦っています。
南アフリカ&オーストラリア:動物モチーフの由来
南半球の強豪国には、その国を代表する動物がマークとして採用されています。南アフリカ代表は「スプリングボクス」と呼ばれます。これはアフリカのサバンナに生息する、驚異的な跳躍力を持つアンテロープ(鹿に似た動物)の一種です。
スプリングボクスは俊敏さと強靭な生命力の象徴であり、アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後の新生南アフリカにおいては、国民融和のシンボルとしても重要な役割を果たしました。映画『インビクタス』でも描かれたように、このマークは単なるチームロゴを超えた、国の希望そのものなのです。
一方、オーストラリア代表は「ワラビーズ」です。カンガルーよりも一回り小さいワラビーが選ばれた理由は、当初イギリス遠征を行った際に、より大きくて強いカンガルー(当時のラグビーリーグ代表の愛称)と区別するためだったとも言われています。しかし今では、小さくても機敏に動き回り、相手を翻弄するオーストラリアラグビーのスタイルを象徴する愛すべきマークとして定着しています。
フランス&スコットランド:国花と雄鶏のプライド
フランス代表のマークは「雄鶏(おんどり)」です。チームの愛称は「レ・ブルー(青)」ですが、エンブレムには黄金の雄鶏が描かれています。これはラテン語で「ガリア人(フランスの古称)」を意味する「Gallus」と、「雄鶏」を意味する「gallus」の綴りが同じであることから、古くからフランスの象徴とされてきたためです。気高く、闘争心にあふれる雄鶏は、シャンパンラグビーと称される彼らの華麗で情熱的なプレーにぴったりです。
スコットランド代表のマークは植物の「アザミ(Thistle)」です。これには伝説があります。大昔、夜襲をかけてきた敵軍の兵士が、暗闇の中でアザミの刺(トゲ)を踏んでしまい、その痛さで悲鳴を上げたため、スコットランド軍が奇襲に気づいて国を守ることができたという話です。このことから「国を救った花」として称えられ、ラグビー代表の胸にも誇らしげに刻まれています。「誰も私を傷つけずには触れられない」という標語を持つアザミのように、頑強で粘り強いスコットランドのラグビーを表しています。
フィールド上の「マーク(ライン)」が持つ重要な意味

最後に紹介するのは、グラウンドそのものに描かれた「マーク(ライン)」です。ラグビー場には無数の白い線が引かれていますが、これらは単なる境界線ではありません。これまで解説してきた「フェアキャッチ」のルールや、戦術の選択に直結する重要な意味を持っています。
テレビ観戦では画面にCGで表示されることもありますが、実際のフィールド上のラインが何を意味しているのかを知ることで、プレーの意図がより明確に理解できるようになります。
ルールの境界線:22メートルラインの重み
ラグビーフィールドで最も戦術的な意味を持つラインの一つが「22メートルライン」です。ゴールラインから22メートルの位置に引かれた実線です。この記事の冒頭で解説した「フェアキャッチ(マーク)」が認められるのは、このラインの内側(インゴール側)だけです。
また、このラインはキックのルールにも深く関わります。自陣22メートルラインの内側から蹴ったボールが、バウンドせずに直接タッチラインの外に出た場合、蹴り出した地点での相手ボールラインアウトとなります(ダイレクトタッチとならず、陣地回復が認められる)。
逆に、このラインの外側からボールを戻して蹴り出した場合は、原則として蹴った地点まで戻されてしまいます。つまり、22メートルラインは「守備側が優遇される安全地帯」との境界線なのです。選手たちがこのラインの内側にいるか外側にいるかで、プレーの選択肢が天と地ほど変わる、まさに運命のマークと言えます。
攻防の基準:ハーフウェイラインと10メートルライン
フィールド中央に引かれているのがハーフウェイラインです。キックオフはここから行われます。そして、その両側10メートルの位置にあるのが破線(点線)で描かれた「10メートルライン」です。
キックオフの際、ボールはこの10メートルラインを超えて飛ばなければなりません。もし超えなければ、相手チームにセンタースクラムなどが与えられます。キッカーにとって、この10メートルという距離は「確実に超えなければならないが、相手にキャッチされやすい奥へ蹴りすぎたくもない」という絶妙なラインです。
ギリギリ10メートルラインを超えて落下させ、味方が競り合ってボールを奪う戦術が現代ラグビーでは主流です。この点線のマーク付近での空中戦は、試合開始直後の最大の見どころとなります。
得点の聖地:トライラインとデッドボールライン
最後に、最もエキサイティングな場所を示すマークについて。H型のゴールポストが立っているラインが「ゴールライン(トライライン)」です。攻撃側はこのラインの上に、あるいはその向こう側にボールをグランディング(地面につける)させることで、初めて5点のトライを獲得できます。
そして、そのさらに奥、フィールドの最果てにあるのが「デッドボールライン」です。ここまでがインゴールエリアとなります。攻撃側がキックしたボールが勢い余ってこのデッドボールラインを超えてしまうと、トライのチャンスは消滅し、相手ボールのスクラムなどで再開となってしまいます。
「トライラインまではあと数センチ」「デッドボールラインギリギリで抑えた!」という攻防は、まさにラグビーの醍醐味です。これらの白いマークが描く長方形の中で、30人の大男たちが体をぶつけ合うドラマが生まれているのです。
まとめ:ラグビーマークを理解して観戦をもっと楽しもう
ここまで「ラグビーマーク」というキーワードを軸に、ルールとしてのマーク(フェアキャッチ)、ディフェンス用語としてのマーク、そして各国の誇りであるチームエンブレムについて解説してきました。
たった一つの言葉ですが、そこにはラグビーという競技が大切にしている「安全性への配慮」「組織的な規律」「歴史への敬意」が凝縮されています。選手が手を挙げて「マーク!」と叫ぶ瞬間、そこにはチームを救う勇気があります。ジャージの胸にあるエンブレムには、国を背負って戦う覚悟が宿っています。
これからの観戦では、ぜひこれらの「マーク」に注目してみてください。「今のフェアキャッチはナイス判断だった!」「あのエンブレムの由来は確か…」と語れるようになれば、ラグビー観戦の楽しさは何倍にも膨れ上がるはずです。フィールド上のあらゆるマークが織りなす熱いドラマを、存分に味わってください。



