TMOの判定基準とは?ラグビー観戦がもっと楽しくなる基礎知識

TMOの判定基準とは?ラグビー観戦がもっと楽しくなる基礎知識
TMOの判定基準とは?ラグビー観戦がもっと楽しくなる基礎知識
ルール・用語・反則

ラグビーの試合を見ていると、レフリーが笛を吹き、両手で四角い形を描くジェスチャーをすることがあります。これは「TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)」と呼ばれるビデオ判定が行われる合図です。近年のラグビーでは、勝敗を分ける重要な局面でこのTMOが頻繁に使われるようになりました。しかし、「何を基準に判定しているの?」「なぜ時間がかかるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

TMOは単なるビデオのリプレイではなく、厳格な「判定基準」と「プロセス」に基づいて運用されています。この基準を知っているかどうかで、判定を待つ時間のドキドキ感や、結果が出たときの納得感が大きく変わります。この記事では、TMOが介入する具体的な条件や、判定を左右する「明白な証拠」という考え方、さらには最新の「バンカーシステム」まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。

TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の判定基準と役割

ラグビーの試合における公平性を保つために導入されたTMOですが、その役割は単に「ビデオを見る人」というだけではありません。ここでは、TMOの基本的な定義と、判定を下す際に最も重要となる基準について解説します。

TMOの基本的な定義とは

TMOとは「Television Match Official(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)」の略称です。フィールドにいる主審(レフリー)や副審(アシスタントレフリー)とは別に、スタジアム内の専用ブースや中継車の中に控えている審判員のことを指します。彼らは中継用のテレビカメラの映像をリアルタイムで確認できる環境にあり、フィールド上の審判団が見逃してしまった反則や、目視では判断が難しい際どいプレーについて、映像を用いてサポートを行います。

重要なのは、TMOも「審判団の一員」であるということです。テレビ中継の実況や解説者が意見を言うのとは異なり、TMOの提供する情報は公式な判定の一部として扱われます。ただし、あくまで主役はフィールドにいるレフリーであり、TMOはレフリーが正しい決断を下すための「ツール」や「助言者」という立ち位置が基本となります。

判定を覆すための「明白な証拠」

TMOの判定基準において、最も重要なキーワードが「明白かつ一目瞭然(Clear and Obvious)」という原則です。これは、レフリーが一度下した判断(あるいは下そうとしている判断)を覆すためには、映像によってはっきりと間違いが証明されなければならないというルールです。

例えば、レフリーが「トライ」と判断した場合、TMOの映像で「ボールが地面についていない」ことが「誰が見ても明らか」でなければ、判定は覆りません。「地面についたようにも見えるし、ついていないようにも見える」といった「疑わしい」レベルでは、元の判定(この場合はトライ)が維持されます。つまり、TMOは「100%確実な証拠」が見つかったときだけ介入の効果を発揮する仕組みになっており、これがラグビーの判定基準の根幹をなしています。

レフリーとの連携プロセス

TMOが勝手に試合を止めて判定を下すことは、基本的にはありません(重篤な危険なプレーを除く)。通常は、レフリーが「確認したい」と思ったときにTMOを要求します。このとき、レフリーは具体的に何を確認したいのかを明確に伝えます。「今のプレーがトライかどうか確認したい」「トライの前のパスがスローフォワードだったか見てほしい」といった具合です。

TMO担当者は、レフリーの要求に応じて最適な角度の映像を探し出し、レフリーに見せます。そして、「画面右側のプレイヤーを見てください」「この角度ではボールが見えません」といった事実を伝えます。最終的な判断はレフリーが行いますが、TMOからの「これは明らかにノックオンです」という助言が決定的な要素となることも多く、両者の密接なコミュニケーションが正確なジャッジを生み出しています。

メモ:スタジアムの大型ビジョンに映像が流れる場合、レフリーだけでなく観客も同じ映像を見ることになりますが、判定の権限はあくまで審判団にあります。

どのようなプレーがTMOの対象になるのか

TMOは試合中のあらゆるプレーに対して使えるわけではありません。使用できる場面はルールで厳格に定められています。主に得点に関わるシーンと、選手の安全に関わる危険なプレーが対象となります。

トライの成否(グラウンディングなど)

最も頻繁にTMOが使われるのが、トライかどうかの判定です。ラグビーでは、ボールを相手陣地のインゴールエリアの地面にしっかりとつける「グラウンディング」が必要です。選手たちが重なり合って倒れ込んだ場合、レフリーの目視だけではボールが地面についているかどうかが確認できないことが多々あります。

また、トライをする瞬間に足がタッチラインを踏んでいないか、ボールを持った手がタッチラインの外に出ていないかも重要なチェックポイントです。さらに、「ダブルムーブメント」と呼ばれる反則(タックルされて一度倒れた後に、起き上がらずにもう一度動いてボールを前に進める行為)がなかったかどうかも、TMOで細かく確認されます。数センチ単位の攻防において、TMOの映像は不可欠なものとなっています。

トライに至るまでの反則

トライが決まったように見えても、そこに至るまでの一連のプレー(直前の2フェーズ以内など)に反則があれば、トライは取り消されます。よくあるのが「ノックオン(ボールを前に落とす)」や「スローフォワード(ボールを前に投げる)」といったミスです。

特にスローフォワードは、パスをした瞬間の手の動きやボールの軌道を確認する必要があり、肉眼では非常に判断が難しい反則の一つです。TMOではスローモーション再生を使って、ボールが手から離れた瞬間に前方に投げられているかどうかを検証します。また、トライにつながる攻撃の中で「オブストラクション(ボールを持っていない相手選手を妨害する行為)」があった場合も、TMOの対象となり、トライがキャンセルされることがあります。

危険なプレー(ファウルプレー)

選手の安全を守ることはラグビーにおける最優先事項であり、TMOは「ファウルプレー(危険な反則)」の発見と判定において極めて重要な役割を果たします。特に近年厳しくなっているのが、頭部や首への接触(ハイタックル)や、空中の選手へのタックル、ボールを持っていない選手へのチャージなどです。

レフリーが死角になっていて危険なプレーを見逃していた場合、TMO担当者から「確認すべき危険なプレーがあった」と通信が入ることがあります。映像で衝突の瞬間を確認し、意図的であったか、危険度がどの程度か(肩が頭に当たっているか、腕を回しているかなど)を分析します。この分析結果に基づいて、ペナルティだけで済むのか、イエローカード(一時的退場)か、レッドカード(一発退場)かが決定されます。

ゴールキックの成否

トライ後のコンバージョンキックや、ペナルティキックの判定にもTMOが使われることがあります。通常はゴールポストの下にいる2人のアシスタントレフリーが旗を上げて成功を知らせますが、ボールがポストの頂点よりも高い位置を通過した場合など、どちらとも言えない微妙なケースが発生します。

このような場合、レフリーはTMOに確認を求めることができます。映像でボールの軌道を確認し、クロスバーを越え、かつ左右のポストの延長線の間を通っているかを判断します。キックの成否は試合の勝敗に直結する点数(2点や3点)に関わるため、ここでも高い精度が求められます。ただし、このケースでの使用頻度はトライやファウルプレーに比べると少なめです。

補足:TMOは原則として「得点」と「不正なプレー」に関わる場面で使用されますが、スクラムやラインアウトの判定そのもの(どちらがボールを入れるかなど)だけのために使われることは稀です。

判定の流れとレフリーの「オンフィールドディシジョン」

TMOが行われる際、レフリーが口にする言葉や手順には決まった「型」があります。この流れを理解しておくと、スタジアムやテレビの前で判定を待つ時間がより興味深いものになります。

オンフィールドディシジョンとは

TMOを要求する際、レフリーは必ずと言っていいほど「オンフィールドディシジョン(On-field Decision)」を宣言します。これは、「映像を見る前の時点での、レフリー自身の仮の判定」のことです。例えば、「私はトライだと見ているが、確証が欲しい」のか、「私はノートライ(トライではない)だと思っているが、確認したい」のかを明確にします。

このオンフィールドディシジョンが、最終的な判定に大きな影響を与えます。なぜなら、前述の「明白な証拠がない限り、判定は覆らない」というルールがあるため、映像が不鮮明で判断がつかない場合は、この「オンフィールドディシジョン」がそのまま最終結果として採用されるからです。レフリーの最初の直感や目視情報が、ベースとして尊重される仕組みになっています。

2つの質問:「トライか?」と「理由はあるか?」

レフリーがTMOに質問を投げかける際、主に2種類の聞き方が存在します。このニュアンスの違いが、判定基準を理解する上で非常に重要です。

1. 「トライ・オア・ノートライ?(Try or No Try?)」

レフリーが全く状況を見えておらず、トライかどうかの判断が全くつかない場合に使われます。この場合、TMOの映像だけが頼りとなり、映像で確認できなければトライは認められず、5メートルスクラムなどで再開されることが多くなります。

2. 「トライを与えてはいけない理由はあるか?(Is there any reason I cannot award the try?)」

レフリーは「トライだ」と確信しているが、念のために確認する場合に使われます。この聞き方の場合、TMO側が「明確な反則の証拠」を見つけ出さない限り、そのままトライが認められます。映像がグレーゾーンであれば、トライになる可能性が高い質問形式です。

映像判定中のスタジアムの様子

TMOが始まると、スタジアムの大型ビジョンには中継映像と同じリプレイが映し出されます。観客も固唾をのんでその映像を見守ります。レフリーはインカムを通じてTMO担当者と会話をしながら、必要に応じて「もっと手前から見せてくれ」「スローにしてくれ」「別のアングルはないか」と指示を出します。

この間、場内にはレフリーとTMOの会話音声が放送されることが一般的です(国際試合やトップリーグなど)。「Check grounding please(グラウンディングを確認して)」や「Checking for offside(オフサイドを確認中)」といった英語のやり取りが聞こえてきます。観客はこの音声を聞くことで、審判団が今どこに注目して議論しているのかをリアルタイムで知ることができます。

最終決定権は誰にあるのか

ここが誤解されやすいポイントですが、最終的な判定を下すのはあくまで「主審(レフリー)」です。TMOは映像を提供し、事実を伝え、推奨意見を述べる立場にあります。たとえTMOが「これは反則に見えます」と言っても、レフリーが映像を見て「いや、これは正当なプレーの範囲内だ」と判断すれば、レフリーの判断が優先されます。

しかし実際には、レフリーは映像の専門家であるTMOの意見を尊重することがほとんどです。特に、レフリーの位置からは見えなかった死角での出来事に関しては、TMOの報告を信頼して判定を下します。つまり、形式上の権限はレフリーにありますが、実質的には「チーム・オブ・スリー(主審・副審・TMO)」による合議制に近い形で運営されていると言えます。

最新ルール「バンカーシステム(FPRO)」とTMOの関係

2023年のラグビーワールドカップフランス大会などで本格導入され、話題となったのが「バンカーシステム」です。正式には「Foul Play Review Official (FPRO)」と呼ばれるこのシステムは、TMOの進化形とも言える新しい判定基準の仕組みです。

バンカーシステム(FPRO)の導入

従来のTMOでは、危険なプレーが発生するたびに試合を長時間止め、レフリーがモニターの前で何度もリプレイを見返して「イエローか、レッドか」を悩むシーンが多く見られました。これによる試合時間の長期化や、間延びした展開を防ぐために導入されたのがバンカーシステムです。

このシステムでは、明らかにレッドカード(一発退場)とまでは断定できないが、イエローカード以上の可能性があるプレーに対して、とりあえずイエローカードを出して選手を一時退場させます。その間に、別室にいる専門のオフィシャル(FPRO)が映像を詳しく分析し、最終的な処分の重さを決定するという流れになります。

イエローカードと「×」のジェスチャー

バンカーシステムが適用される際、レフリーは通常とは少し違うシグナルを出します。まず対象の選手にイエローカードを提示した後、両腕を頭の前で交差させて「×」のマークを作ります。これが「このプレーは現在レビュー中です」という合図です。

この合図が出ると、選手は10分間のシンビン(一時的退出)となりますが、その反則がただのイエローカードで終わるのか、それともレッドカードに格上げされるのかは、まだ確定していません。判定はフィールドのレフリーの手を離れ、裏方にいる「バンカー」へと委ねられます。

8分間のレビューと判定の格上げ

バンカーにいる担当者は、選手がシンビンになっている10分間のうち、最大8分間を使ってあらゆる角度の映像を検証します。焦点は「危険性の度合い」です。頭部への接触の強さ、回避の可能性などを詳細にチェックします。

もし「危険度が非常に高く、レッドカードに相当する」と判断されれば、判定はレッドカードに格上げされます。この場合、スタジアムのビジョンなどでその旨が通知され、当該選手はそのまま試合に戻ることはできません。逆に、イエローカードのままで十分と判断されれば、10分経過後に選手はフィールドに戻ることができます。

試合のスピードアップへの貢献

このシステムの最大のメリットは、試合のスピードアップです。レフリーがモニターの前に立ち尽くす時間が大幅に短縮され、試合がすぐに再開されるようになりました。観客にとっても、長い中断時間に退屈することなく、スムーズな試合展開を楽しむことができます。

また、裏方で時間をかけて冷静に分析できるため、判定の精度自体も向上すると期待されています。フィールド上の興奮やプレッシャーから離れた場所で、専門家が落ち着いて判断できる環境が整ったことは、公平なレフリングにとって大きな進歩と言えるでしょう。

TMO判定におけるよくある疑問と誤解

TMOは便利なシステムですが、万能ではありません。観戦していると「なんでこんなに長いの?」「今の判定はおかしくない?」と感じることもあるでしょう。ここでは、よくある疑問について解説します。

なぜ判定に時間がかかることがあるのか

TMOが長引く最大の理由は、「決定的な証拠が見つからないこと」にあります。レフリーもTMOも、誤審を避けるために慎重になります。特にトライかどうかの場面では、ボールと地面の間に手が入っているのか、わずかでも地面に触れているのかを確認するために、何台ものカメラの映像をコマ送りで再生し、ズームアップして確認します。

また、複数の反則が連鎖している場合も時間がかかります。「トライのグラウンディングはOKだが、その前のパスが怪しい、さらにその前のタックルで反則があったかもしれない」といった具合に、チェック項目が増えれば増えるほど、時間は経過してしまいます。

カメラの死角と「判定不能」の扱い

スタジアムには多くのカメラが設置されていますが、それでも「死角」は存在します。選手が密集しているラックの下や、モールの中などは、カメラでも中を覗き見ることができません。

TMOであらゆる角度の映像を見ても、肝心な部分が他の選手の体で隠れてしまっている場合、判定は「インコンクルーシブ(Inconclusive=結論が出ない)」となります。この場合、原則として「オンフィールドディシジョン(レフリーの最初の判定)」が維持されます。テクノロジーを使っても分からないことは、人間の審判の判断を尊重するというのがラグビーのルールです。

観客の反応が判定に影響するか

スタジアムの大型ビジョンに反則シーンが流れると、観客から大きなブーイングや歓声が上がることがあります。これがレフリーの心証に影響を与えるのではないかと心配する声もありますが、プロのレフリーは外部の音に惑わされないよう訓練されています。

また、レフリーが見落としていた反則がビジョンに映し出され、観客が騒いだことによってレフリーが気づき、TMOを要求するというケースも稀にあります。これはルール上推奨されているわけではありませんが、結果として正しい判定(危険なプレーの排除など)につながる場合、事実上の是正措置として機能している側面もあります。

すべてのプレーを見返せるわけではない

「さっきのスクラム、相手が反則していたじゃないか!」と後から思っても、TMOは遡れる範囲に制限があります。基本的には、トライにつながった直前のプレーや、重大なファウルプレーに限られます。

試合の数分前の軽い反則まで全てチェックしていては、試合が全く進まなくなってしまいます。ラグビーのTMOは「試合の勝敗を左右する重大な局面(ビッグモーメント)」に絞って運用されていることを理解しておくと、不満も少なくなるはずです。

まとめ:TMOの判定基準を知ればラグビーはもっと深い

まとめ
まとめ

TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)は、ラグビーの高度化と高速化に伴い、公平性を担保するために欠かせないシステムとなりました。その判定基準の核となるのは、「明白な証拠(Clear and Obvious)」があるかどうかです。レフリーの最初の判断(オンフィールドディシジョン)を尊重しつつ、映像が100%の間違いを示したときのみ修正するという原則が貫かれています。

また、「バンカーシステム」の導入により、試合の流れを止めることなく、より精度の高い危険なプレーの判定が可能になりました。TMOは単に白黒をつける機械的な作業ではなく、レフリー、アシスタントレフリー、そしてTMO担当者が連携して「正しい試合」を作り上げるためのコミュニケーションプロセスそのものです。

次にラグビーの試合を見るときは、レフリーが四角いジェスチャーをした瞬間に注目してみてください。「レフリーは何を確認したいのか?」「どんな質問をしているのか?」「映像に明白な証拠は映っているか?」これらを意識することで、判定を待つ時間さえも、ラグビー観戦の醍醐味の一つになるはずです。

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