ラグビーの試合を観戦していると、選手が大きくボールを蹴りすぎてしまい、コートの一番奥にあるラインを超えてしまうシーンを目にすることがあります。「あっと、蹴りすぎた!」と観客席から声が上がる瞬間ですが、その後どのような方法で試合が再開されるのか、詳しく知っていますか?
実は、ボールがこの「デッドボールライン」を超えたとき、それが「誰が蹴ったのか」「どうやって超えたのか」によって、再開方法が大きく変わるのです。時には攻撃側に有利なスクラムになったり、防御側に有利なドロップアウトになったりと、その判定は試合の流れを左右する重要なポイントになります。
この記事では、ラグビー観戦初心者の方に向けて、ボールがデッドボールラインを超えたときのルールをやさしく、詳しく解説します。複雑そうに見える再開の選択肢も、基本さえ押さえれば「なるほど、だからこのプレーを選んだのか!」と、観戦の楽しさが倍増しますよ。
デッドボールラインを超えたら試合はどう再開される?基本のルール

まず最初に、ラグビーのフィールドにおける「デッドボールライン」の位置と、ボールがここを超えたときの基本的な考え方について解説します。ラグビーにはたくさんのラインが引かれていますが、このラインはフィールドの「行き止まり」を意味する重要な境界線です。
デッドボールラインとはどこのライン?
デッドボールラインとは、ゴールポストが立っている「ゴールライン」のさらに奥、インゴールエリア(トライできる場所)の最後尾にあるラインのことです。フィールドの長辺に引かれた「タッチライン」とは異なり、短辺の最も端にあるラインを指します。
ラグビーのフィールドは、ゴールラインからデッドボールラインまでの範囲を「インゴール」と呼び、この広さはスタジアムによって多少異なります(通常10メートルから22メートルの間)。攻撃側はこのインゴールを目指して走り、防御側はここを守ります。デッドボールラインは、いわば「プレーできる限界の線」であり、ここを超えるとプレーエリア外となります。
ボールがラインを超えた瞬間にプレーは止まる
ボールまたはボールを持った選手がデッドボールラインに触れるか、それを超えた場合、その瞬間にプレーは中断されます。これをラグビー用語で「ボールデッド」と呼びます。
タッチライン(横のライン)から出た場合は「ラインアウト」という独特のセットプレーで再開されますが、デッドボールライン(奥のライン)を超えた場合は、ラインアウトにはなりません。状況に応じて「スクラム」や「ドロップアウト」といった方法で試合が再開されます。
この「ボールが死んだ(デッドになった)」状態になったとき、レフリーは笛を吹き、次の再開方法をジェスチャーで示します。観戦中は、レフリーがどちらのチームの手を挙げているか、あるいはどの場所を指しているかに注目すると、次のプレーが予測しやすくなります。
誰が最後に触ったかで再開方法が変わる
デッドボールラインを超えたときの再開方法を決める最大の要因は、「最後にボールをどう扱ってラインを超えたか」と「どちらのチームが持ち込んだか」です。
ラグビーには「自分たちでボールを外に出してプレーを切る」ことに対するペナルティのような考え方と、「相手に押し込まれて出された」場合の救済措置のような考え方が混在しています。そのため、以下のようなポイントで判定が分かれます。
判定のポイント
・攻撃側がキックして超えたのか?
・防御側が持ち込んで出したのか?
・攻撃側の選手が走り抜けてしまったのか?
次からのセクションで、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
攻撃側のキックがデッドボールラインを超えた場合

試合で最もよく見られるのが、攻撃側の選手が前進を狙ってキックをし、それが勢い余ってデッドボールラインを超えてしまうケースです。テリトリー(陣地)を挽回しようとしたり、相手の背後のスペースを狙ったりしたキックが長すぎた場合に起こります。
地面に触れずに直接ラインを超えたとき
攻撃側のプレーヤーが蹴ったボールが、インゴールエリア内の地面や他の選手に触れることなく、そのままデッドボールラインを越えて外に出てしまった場合。これはキックの力が強すぎた「ミスキック」とみなされることが多いプレーです。
この場合、防御側(蹴られた側)のチームには2つの選択肢が与えられます。
多くのチームは、ボールが蹴られた地点でのスクラムを選択します。なぜなら、キック地点まで相手を戻すことで陣地を大きく挽回できるうえ、スクラムという攻撃の起点を得られるからです。特にキック地点がハーフウェイライン付近だった場合、一気に敵陣深くで攻撃権を得られる大きなチャンスとなります。
地面に転がってラインを超えたとき
キックしたボールがフィールド内でバウンドし、コロコロと転がってそのままデッドボールラインを超えてしまった場合も、基本的には「直接超えたとき」と同じルールが適用されます。
このケースでも、防御側のチームは「蹴った地点でのスクラム」か「22メートルドロップアウト」を選択できます。転がって出た場合、キックした選手としては「いいところに蹴ったつもりだったが、伸びすぎてしまった」という惜しい状況ですが、結果として相手に選択権を与えてしまうことになります。
ただし、最近のルール解釈や「50:22(フィフティ・トゥエンティトゥ)」という新ルールの影響で、キックのコントロールは非常に重要視されています。デッドボールラインを超えてしまうと、せっかくのチャンスがピンチに変わってしまうのです。
防御側が触ってからラインを超えたとき
攻撃側が蹴ったボールに対し、防御側の選手がキャッチしようとして触れ、その勢いでボールがデッドボールラインを超えてしまった場合はどうなるでしょうか。
この場合、最後に触れたのは防御側の選手ですが、その原因を作った(ボールを勢いよく蹴り込んだ)のは攻撃側であると判断されるケースと、防御側のミスと判断されるケースがあります。
もし防御側の選手がボールを確実に保持しようとしてミス(ノックオンなど)をして外に出たのであれば、攻撃側ボールのスクラム(ゴール前5メートル)になることが一般的です。しかし、単にボールが体に当たってそのままデッドラインを超えた場合など、状況によってはドロップアウトになることもあります。レフリーの判断が「キックの勢い」にあるのか「守備側のプレー」にあるのかが分かれ目です。
ドロップゴールを狙って外れて超えたとき
得点を狙う「ドロップゴール」や、ペナルティキックでのゴール狙いが外れ、そのままボールがデッドボールラインを超えてしまった場合です。これは意図的なパスやパントキックとは区別されます。
ゴールを狙ったキックが外れてデッドボールラインを超えた場合は、防御側のチームによる「22メートルドロップアウト」で再開されます。この場合、蹴った地点でのスクラムという選択肢はありません。
攻撃側としては3点を狙ったチャレンジの結果なので、失敗しても相手にスクラムという有利な状況を与えずに済む、比較的リスクの低いプレーと言えます。そのため、試合終了間際などで点差がつまっているときは、積極的にドロップゴールを狙うシーンが見られます。
防御側がボールをデッドボールラインの外に出した場合

次は逆に、守っている側のチームが、自らボールをデッドボールラインの外に出すケースです。これはピンチを脱出するための緊急避難的なプレーとして行われますが、その代償として相手に有利な再開方法が与えられます。
キャリーバックとは?自ら持ち込んでしまった場合
防御側の選手が、フィールド(インゴールより前のエリア)にあったボールを自らインゴールに持ち込み、そのままデッドボールラインの外に出したり、インゴール内でボールを押さえたりするプレーを「キャリーバック(Carry Back)」と呼びます。
「自分たちで持ち込んで、自分たちでプレーを切った」とみなされるため、このプレーに対する再開方法は防御側にとって非常に厳しいものになります。再開位置は、ゴールラインから5メートル手前の地点での相手ボールのスクラムです。
ゴール前5メートルという、トライ目前の超至近距離で相手にスクラムを与えることになるため、キャリーバックは「絶体絶命のピンチ」を招くプレーと言えます。選手たちはこれを避けるため、可能な限りインゴール外に蹴り出すか、持ち込まずに処理しようとします。
相手のキック処理で勢い余って出た場合
相手が蹴ったボールを自陣のインゴール内で処理する際、勢い余ってデッドボールラインを踏んでしまったり、超えてしまったりすることがあります。
この場合、重要なのは「ボールが既にインゴールに入っていたかどうか」です。相手のキックによってボールがインゴールに入り、それを防御側が取ってデッドラインを出た(または押さえた)のであれば、それは「相手が持ち込んだ」ことになります。
この場合はキャリーバックにはならず、「22メートルドロップアウト」(場合によっては後述するゴールラインドロップアウト)での再開となります。防御側にとっては、陣地を22メートルラインまで回復できるため、比較的安全な再開方法と言えます。
故意にボールを外に出したときのペナルティ
防御側の選手が、相手にトライされるのを防ぐために、手でボールをデッドボールラインの外へ故意に弾き出したり、投げ捨てたりした場合はどうなるでしょうか。
これは「故意にボールをデッドにする」という反則行為とみなされます。通常はペナルティキックが与えられますが、もしその行為がなければ間違いなくトライが決まっていたとレフリーが判断した場合、「ペナルティトライ(認定トライ)」が与えられることがあります。
ペナルティトライはゴールキックなしで自動的に7点が入り、さらに反則をした選手にはイエローカード(シンビン)が出されることも多いため、守備側にとっては最悪の結果となります。どんなにピンチでも、故意に外へ放り出すプレーは厳禁なのです。
「22メートルドロップアウト」と「スクラム」の選択権

先ほど説明した「攻撃側のキックがデッドボールラインを超えた場合」、防御側には再開方法の選択権が与えられることがあります。ここでは、その選択肢の意味と戦術的な違いについて深掘りします。
攻撃側が蹴り込んだ場合は防御側に選択権がある
攻撃側のキックが直接、あるいはバウンドしてデッドボールラインを超えた際、防御側は以下の2つから選ぶことができます。
選択肢1:スクラム
ボールを蹴った地点まで戻り、マイボール(防御側投入)のスクラムを組む。
選択肢2:22メートルドロップアウト
自陣の22メートルラインから、ドロップキックで試合を再開する。
観戦していると、選手たちが集まって話し合ったり、キャプテンがレフリーに合図を送ったりするシーンが見られますが、まさにこの選択を行っている瞬間です。
22メートルドロップアウトのやり方と位置
22メートルドロップアウトを選択した場合、防御側のチームは自陣22メートルラインの後方であれば、どの位置からでもキックができます。通常は、ボールを一度地面にバウンドさせて蹴る「ドロップキック」を用います。
この再開方法のメリットは、すぐにプレーを始められることと、キック力があれば一気にハーフウェイライン付近まで陣地を戻せることです。フォワードの選手が疲弊している場合や、相手のスクラムが強力で組みたくない場合には、このドロップアウトが選ばれる傾向があります。
センタースクラムが選択されるケース
一方、スクラムを選択するケースも非常に多いです。特に、相手がハーフウェイライン付近や自陣深めからキックを蹴っていた場合、「蹴った地点」でのスクラムは防御側にとって大きなチャンスになります。
一気に敵陣深くでマイボールスクラムを得られるため、そこからトライを狙うセットプレーを仕掛けることができます。「相手のミス(蹴りすぎ)を最大限利用して反撃する」という攻撃的な選択と言えるでしょう。
選択における戦術的なメリットとデメリット
どちらを選ぶかは、その時の試合状況や点差、天候によって変わります。
雨の日やグラウンド状態が悪い場合:
スクラムは足元が滑りやすくリスクが高いため、ドロップアウトで安全に陣地を挽回することを選ぶチームが増えます。
スクラムに自信があるチームの場合:
迷わずスクラムを選択し、相手フォワードに圧力をかけてペナルティを奪いに行きます。
負けていて時間がない場合:
スクラムを組むには時間がかかるため、ドロップアウトですぐに再開し、ボールを展開する選択をすることもあります。
よくある勘違い?「ゴールラインドロップアウト」との違い

近年、ラグビーのルール改正により登場した新しい再開方法に「ゴールラインドロップアウト」があります。これが従来の「22メートルドロップアウト」やデッドボールラインを超えた時のルールと混同されやすいため、ここで明確に区別しておきましょう。
ゴールラインドロップアウトが適用される場面
ゴールラインドロップアウトは、主に以下のような場面で適用されます。
- 攻撃側の選手がインゴール内で相手に捕まり、ボールを地面につけられなかった場合(ヘルドアップ)。
- 攻撃側の選手がインゴール内でボールを前に落とした場合(ノックオン)。
- 攻撃側のキック(ドロップゴール狙いなどを除く)を、防御側がインゴール内で押さえた場合(2021年以降の新ルール)。
これらはすべて、ボールが「インゴールの中に留まっている」状態でプレーが止まったケースです。
デッドボールライン越えとインゴール内での停止の違い
ここが最も重要な違いです。
明確な違い
ボールがデッドボールラインを超えて外に出た
→ 「22メートルドロップアウト」または「スクラム選択」
※攻撃側のキックが原因の場合
ボールがインゴール内に留まってデッドになった
→ 「ゴールラインドロップアウト」
※防御側がグラウンディングした場合やヘルドアップの場合
つまり、「ラインを超えてフィールドから消えた」なら従来のルール(22mドロップアウト等)、「フィールド内(インゴール)でプレーが詰まった」なら新ルール(ゴールラインドロップアウト)、と覚えると分かりやすいでしょう。
観戦時に見分けるためのポイント
テレビ観戦やスタジアムで「今のどっち?」と迷ったときは、レフリーと選手の立ち位置を見てください。
選手が22メートルライン(ゴールから少し離れた線)に並んでいたら、それは「デッドボールラインを超えた」ことによる22メートルドロップアウトです。
一方、選手がゴールライン(ゴールポストがある線)の真上に立ってキックの準備をしていたら、それは「ゴールラインドロップアウト」です。
この違いを知っているだけで、「あ、今はキックが伸びすぎたんだな」「今はディフェンスが粘ってトライを防いだんだな」と、状況を瞬時に理解できるようになります。
まとめ

ラグビーにおいて「デッドボールラインを超えたらどうなるか」は、誰がボールをどう扱ったかによって大きく結果が変わります。最後に、今回の解説の要点を振り返りましょう。
基本となるのは、攻撃側のキックがデッドボールラインを超えてしまった場合です。この時、守る側には「蹴った場所でのスクラム」か「22メートルドロップアウト」を選ぶ権利が与えられます。これは攻撃側の「蹴りすぎ」というミスに対するペナルティのような意味合いがあります。
一方で、防御側が自らボールを持ち込んでラインを出た場合(キャリーバック)は、ゴール前5メートルでの相手ボールスクラムという、非常に厳しい状況で再開されます。ピンチを脱しようとして不用意にボールを扱うと、逆に大ピンチを招いてしまうのです。
また、最近導入された「ゴールラインドロップアウト」は、ボールがラインを超えずインゴールに残った場合に適用されることが多く、デッドボールラインを超えたケースとは区別して覚える必要があります。
フィールドの一番奥にあるデッドボールライン。そこには、一発逆転のチャンスと、痛恨のミスが紙一重で存在しています。次に試合を観るときは、ぜひこのライン際の攻防にも注目してみてください。






