ラグビーの試合を見ていると、突然レフリーが笛を吹き、ゴールポストの真ん中に向かって手を挙げるシーンに出くわすことがあります。選手がボールをインゴールに運んでいないのに得点が入るこのプレーは、「ペナルティトライ(認定トライ)」と呼ばれます。
「なぜ今のプレーがいきなりトライになったの?」
「普通の反則と何が違うの?」
そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。実はペナルティトライは、単なる反則に対する罰則ではなく、ラグビーの「公平性」を守るための非常に重要なルールなのです。
この記事では、ペナルティトライが宣告される具体的な基準や、よくあるケース、そして同時に出されるイエローカードの意味について、ラグビー初心者の方にもわかりやすく解説します。
ペナルティトライの基準となる「2つの絶対条件」

ペナルティトライ(認定トライ)とは、守備側の反則がなければ攻撃側がトライできていたと判断された場合に与えられる、特別なトライのことです。レフリーがこの判定を下すには、明確な基準が存在します。
なんとなくの雰囲気で決まるのではなく、以下の「2つの条件」が同時に満たされたときにのみ、ペナルティトライは成立します。
【ペナルティトライの成立条件】
1. 守備側に「不当なプレー(反則)」があったこと
2. その反則がなければ、「おそらくトライできていた」という確実性があること
条件1:守備側による「不当なプレー」
まず大前提として、ディフェンス側の選手による「反則行為」が必要です。単にディフェンスが崩されたり、攻撃側が強かったりするだけではペナルティトライにはなりません。
ハイタックル、オフサイド、スクラムのコラプシング(崩す行為)など、ラグビーのルールに違反するプレーによって攻撃が妨害されたかどうかが最初のチェックポイントです。
条件2:「おそらくトライ」という確率の判断
ここが最も重要なポイントです。「反則があった」という事実だけでは、ペナルティキック止まりです。レフリーは、その反則がなければ攻撃側がトライできていたかどうかを瞬時にシミュレーションします。
ルールブック(競技規則)には「間違いなくトライ」ではなく、「おそらくトライが得られた(probable)」という表現が使われています。つまり、100%の確実性までは求められていませんが、誰が見ても「今の反則がなければ、そのまま走ってトライしていただろう」と納得できるレベルの高い確率が必要です。
判定における「場所」の重要性
ペナルティトライの基準において、反則が起きた「場所」も重要な要素です。基本的にはゴールラインの直前(インゴールまであと数メートル)や、インゴール内での攻防で発生します。
ハーフウェイライン付近での反則がペナルティトライになることは、独走状態で後ろからジャージを掴まれたような極端な例を除いて、ほとんどありません。「ゴールラインまでボールを運べる勢いと状況があったか」が厳しく見極められます。
よくあるペナルティトライのケース5選

実際の試合では、どのような場面でペナルティトライが取られることが多いのでしょうか。ここでは、観戦中によく見かける代表的な5つのパターンを紹介します。
1. ゴールライン直前での「ハイタックル」
ボールを持った選手がゴールラインに飛び込もうとした際、ディフェンダーが首から上にタックル(ハイタックル)をして止めた場合です。
適正な低いタックルであれば止められたかもしれませんが、危険なハイタックルによって無理やり勢いを止め、それが原因でボールを地面につけられなかったと判断されれば、即座にペナルティトライとなります。
2. スクラムを故意に崩す「コラプシング」
ゴールラインまであと5メートルという地点でのスクラムでよく起こります。攻撃側のスクラムが圧倒的に強く、そのまま押せばトライになる勢いがあるとき、守備側が耐えきれずに故意にスクラムを崩してしまうケースです。
レフリーは「スクラムが崩されなければ、そのままインゴールまで押し込めていた」と判断し、ペナルティトライを宣告します。フォワード戦の見せ場の一つです。
3. モールを崩してトライを防ぐ行為
ラインアウトから形成されたモール(選手が塊になって押すプレー)がゴールラインに迫ったとき、守備側が横から入ったり、故意に座り込んだりしてモールを崩す反則です。
モールの勢いが完全にゴールに向かっており、反則なしでは止められなかったとみなされると、ペナルティトライになります。これもフォワードの強さが光る場面でよく見られます。
4. パスを故意にはたき落とす「インテンショナルノックオン」
攻撃側がライン際で余っており、ラストパスが通れば誰もいないインゴールへ走り込むだけ、という状況でよく起こります。ディフェンダーがパスカットを狙うのではなく、単にパスを妨害するために片手でボールをはたき落とす反則です。
「そのパスが通っていれば、外側の選手が確実にトライできていた」と判断されるため、非常に高い確率でペナルティトライとなります。
5. ボールを持っていない選手への「アーリータックル」
インゴールに蹴り込まれたボールを追いかけ、あと少しでボールを押さえられそうな攻撃側の選手に対し、ボールを持っていない状態でタックルしたり、進路を妨害したりする行為です。
ボールを持たない選手への接触は反則であり、その妨害がなければ先にボールに追いついてトライできていたと判断されれば、認定トライとなります。
メモ:
これらのケースに共通するのは、「守備側がルールを破って、決定的な得点機会を潰した」という点です。これを許すと「反則したもん勝ち」になってしまうため、厳しい判定が下されます。
なぜ「イエローカード」がセットになるのか?

ペナルティトライが宣告されると、多くの場合、反則を犯した選手に対してイエローカード(シンビン)が提示されます。なぜ、7点を与えられた上に、10分間の退場処分まで受けるのでしょうか。
「プロフェッショナルファウル」への厳罰
ラグビーでは、意図的に反則をして相手のチャンスを潰す行為を「プロフェッショナルファウル」と呼び、厳しく戒めます。ペナルティトライになるような場面は、まさに「トライ寸前の決定機」です。
これを反則で止める行為は、スポーツマンシップに反する悪質なプレーとみなされます。そのため、「ペナルティトライ(7点)」+「イエローカード(一時退場)」という二重の罰がセットで適用されるのが原則となっています。
反則した選手が特定できない場合
スクラムやモールなど、集団での反則によってペナルティトライになった場合、レフリーが「誰が崩したか」を特定しにくいことがあります。
しかし、それでも誰か一人がカードを受けなければならないケースが多く、基本的には反則の主原因となった選手や、チームキャプテンに対して注意が与えられることがあります。近年のルール適用では、特定の個人番号を指定してイエローカードを出すことが徹底されています。
レッドカードになるケース
もし、その反則自体が非常に危険なプレー(例えば、相手の頭部を直接殴打するようなハイタックルや、怪我をさせるようなショルダーチャージ)だった場合は、イエローカードではなくレッドカード(一発退場)が提示されることもあります。
ペナルティトライだからといって自動的にイエロー止まりになるわけではなく、プレーの危険度に応じて処分の重さは変わります。
「コンバージョンなしで7点」のルールとその理由

昔からラグビーを見ている方の中には、「ペナルティトライの後に、正面からコンバージョンキックを蹴っていた」記憶があるかもしれません。しかし、現在のルールは異なります。
2017年のルール改正で「自動7点」に
2017年のルール改正により、ペナルティトライが宣告された時点で、コンバージョンキックを行わずに自動的に7点が入るようになりました。
以前は、ペナルティトライ(5点)の後に、ゴールポスト正面からのコンバージョンキック(2点)を行う必要がありました。しかし、正面からのキックはプロレベルではほぼ100%成功するため、形式的なプレーとなっていました。
時間短縮とスピーディーな展開のため
この変更の主な目的は、試合時間の短縮(プレー時間の確保)です。キックの準備や実行にかかる時間を省き、すぐに試合を再開させることで、よりスピーディーでエキサイティングな試合展開を促しています。
【現在の得点内訳】
・通常のトライ:5点 + キック(成功で2点)
・ペナルティトライ:即座に7点(キック不要)
「7点」の重み
通常のトライであれば、難しい角度からのコンバージョンキックを外して「5点」止まりになる可能性があります。しかし、ペナルティトライは「確実な7点」です。
接戦において、この2点の差は非常に大きく、守備側にとっては精神的にも大きなダメージとなります。さらに選手が一人いなくなる(イエローカード)ため、試合の流れを一気に変えるビッグプレーと言えます。
試合の流れを変える「レフリーとTMO」の判断プロセス

ペナルティトライは試合の勝敗を左右する重大な判定であるため、レフリーも慎重になります。どのようにしてこの結論に至るのか、その裏側を知ると観戦がより深まります。
レフリーとTMOの連携
肉眼で明らかにわかる場合は、レフリーが即座に笛を吹き、ポールの中央へ走っていきます。しかし、密集の中やギリギリのプレーでは、TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)と呼ばれるビデオ判定担当者と交信を行います。
「反則はあったか?」「その反則がなければトライだったか?」という2点について、映像を見ながら会話を交わし、最終的な決断を下します。
「確実なトライ」の証明は難しい
実は、守備側にとっても言い分があるケースは少なくありません。「反則は認めるが、後ろにカバーの選手がいたからトライは確実ではなかったはずだ」という主張です。
レフリーは映像を確認し、ディフェンスの人数、配置、攻撃側の勢いなどを総合的に分析します。ここで「カバーディフェンスが間に合う可能性があった」と判断されれば、ペナルティトライではなく、単なるペナルティとイエローカードで済む場合もあります。
この「たら・れば」の判断こそが、レフリーの最も難しい仕事の一つであり、観客が固唾を飲んで見守る瞬間でもあります。
観客が見るべきレフリーのジェスチャー
スタジアムやテレビで観戦中に、レフリーが以下の動作をしたらペナルティトライの合図です。
- 笛を長く強く吹く
- ゴールポストの中央へ向かって走る
- 手を高く挙げ、さらにイエローカードをポケットから取り出す
この一連の動作が見えたら、一気に7点が入り、相手選手が退場するという劇的な展開が待っています。
まとめ:ペナルティトライの基準を知ればラグビー観戦がもっと楽しくなる
ペナルティトライは、ラグビーの「正々堂々と戦う」という精神を象徴するルールです。反則によって不当にトライを防ぐことを許さず、攻撃側の努力を正当に評価するための仕組みと言えます。
最後に、ペナルティトライの基準とポイントを振り返りましょう。
【記事の要点まとめ】
- 基準は「反則」と「トライの確実性」の2つが揃うこと。
- スクラム、ハイタックル、故意のノックオンなどが主な原因。
- コンバージョンキックなしで、自動的に7点が入る。
- 原則として、反則をした選手にはイエローカードが出る。
- レフリーとTMOが連携して、慎重かつ厳格に判定する。
次にラグビーの試合を見るときは、ゴールライン際での攻防に注目してみてください。「今の反則がなければトライだったかな?」と想像しながら観戦することで、レフリーの判定に対する理解が深まり、ラグビーがもっと面白くなるはずです。



