ラックがアンプレーアブル判定になる理由とは?ルールと再開方法

ラックがアンプレーアブル判定になる理由とは?ルールと再開方法
ラックがアンプレーアブル判定になる理由とは?ルールと再開方法
ルール・用語・反則

ラグビーの試合中、選手たちが折り重なって密集(ラック)を作っている最中に、突然レフェリーの笛が鳴り響くことがあります。「反則かな?」と思いきや、レフェリーはスクラムを指示。これは「アンプレーアブル」という判定が下された瞬間です。

激しい攻防の中でボールが埋もれてしまい、試合が動かなくなった時に適用されるこのルール。実は、どちらのチームがボールを投入するスクラムになるのか、状況によって細かく決まっています。

今回は、この「ラックでのアンプレーアブル」について、判定の基準や再開方法、そしてよく似ている「モール」との決定的な違いまで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。

ラックでアンプレーアブルが宣せられる状況とは

ラグビー観戦において、最も頻繁に目にする密集戦が「ラック」です。このラックの中で「アンプレーアブル」が宣言されるのは、一体どのような状況なのでしょうか。まずは基本的な定義と、なぜそのような判定が必要なのかを紐解いていきましょう。

ボールが完全に出なくなった状態

アンプレーアブル(Unplayable)とは、直訳すると「プレー不可能」という意味です。ラックにおいてこれは、ボールが選手たちの体の下に完全に埋もれてしまったり、両チームの選手が入り乱れてボールを足で掻き出すことも、手で拾い上げることもできなくなったりした状態を指します。

ラグビーは「ボールを継続して動かすこと」を前提としたスポーツです。しかし、密集の中でボールが物理的にロックされ、どちらのチームもクリーンにボールを出せない膠着状態に陥ることがあります。このまま無理にプレーを続けさせると、選手たちがさらに密集に飛び込み、怪我をする危険性が高まります。

そのため、レフェリーは安全確保とスムーズな試合進行のために、意図的に笛を吹いてプレーを中断させます。これがアンプレーアブルの基本的な考え方です。

「ユーズ・イット」との違い

よく混同されがちなのが、レフェリーが叫ぶ「ユーズ・イット(Use it!)」というコールとの違いです。ユーズ・イットは、ボールがラックの最後尾にあり、「プレー可能な状態」であるにもかかわらず、攻撃側が意図的に時間を使っている場合に出される指示です。

ユーズ・イットと言われてから5秒以内にボールを使わなければ、相手ボールのスクラムになってしまいます。これは「ボールは出せるけれど出さない」状況へのペナルティに近い措置です。

一方、アンプレーアブルは「出そうとしても物理的に出せない」状況です。選手がサボっているわけではなく、構造上どうしようもない状態であるため、反則ではなく「事故的な中断」として扱われます。この「出せるか、出せないか」が、両者の大きな違いです。

レフェリーが判定を下すタイミング

レフェリーがアンプレーアブルの笛を吹くタイミングは、数秒の判断にかかっています。基本的には、ラックが形成され、ボールが出ないまま数秒間押し合いが続いた時点で判断されます。

ただし、レフェリーはできる限りプレーを継続させようと努力します。「ボールを出せ!」「離せ!」と声をかけ、それでも状況が改善しないと判断した瞬間に笛を吹きます。観戦していると「もう少し待てば出たのに」と思うこともあれば、「もっと早く止めてくれ」と思うこともあるでしょう。

この判定の早さはレフェリーの個性や、その試合の安全基準(荒れ模様の試合なら早めに止めるなど)によって多少前後します。観客としては、レフェリーが密集を覗き込み、手詰まりだと判断した瞬間を見逃さないようにしましょう。

知っておきたいポイント
最近のルール傾向では、ボールが少しでも見える場合はレフェリーが選手に「ボールが見えているぞ(Ball is available)」と伝え、プレー継続を促すことが多くなっています。それでも動かない場合に初めてアンプレーアブルが適用されます。

アンプレーアブル後の再開方法はスクラムが基本

アンプレーアブルの笛が鳴った後、試合はどのように再開されるのでしょうか。多くの場合、試合再開の方法は「スクラム」となります。しかし、ラグビーのルールが少し複雑なのは、「どちらのチームがボールを入れるスクラムになるか」という点です。

基本は「前に進んでいたチーム」のボール

ラックでアンプレーアブルになった場合、再開のスクラムは「ボールが止まる直前に、前に進んでいた(優勢だった)チーム」がボールを投入します。

これは非常に重要なルールです。通常、攻撃側(ボールを持っていた側)が優勢でラックを押していることが多いですが、もし守備側が強力なカウンターラック(押し返し)を見せ、守備側が前に進んでいる状態でボールが埋もれたなら、守備側のボールになります。

つまり、単に「ボールを持っていた方のボール」になるわけではありません。「勢い(モメンタム)」を持っていたチームが報われる仕組みになっているのです。レフェリーは笛を吹くと同時に、腕を上げてどちらのチームのボールになるかを示します。

優劣がない場合は攻撃側のボール

では、ラックが完全に停止しており、どちらのチームも前に進んでいなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合、ルールでは「元々ボールを保持していた攻撃側のチーム」のスクラムになります。

多くのラック・アンプレーアブルでは、明確な前進が見られないままボールが埋もれるケースが多いため、結果的に「攻撃側のボールで再開」となることが大半です。これが「ラックで止まったら攻撃側のボール」という一般的な認識に繋がっています。

ただし、これはあくまで「優劣がつかない場合」の救済措置であることを覚えておくと、レフェリーが守備側にボールを与えた時の驚きが減るはずです。

なぜペナルティにならないのか

初心者の方が疑問に思う点として、「ボールが出ない原因を作った選手が反則ではないのか?」ということがあります。例えば、相手選手がボールの上に覆いかぶさっているなら「シーリング」などの反則ではないか、という疑問です。

もちろん、明らかな反則(手を使ってボールを殺す、倒れ込んで意図的に蓋をするなど)があれば、レフェリーはアンプレーアブルではなくペナルティの笛を吹きます。

アンプレーアブルが適用されるのは、「反則とは断定できないが、偶然や物理的な要因でボールが出なくなった」と判断された場合です。いわば「引き分け」や「ノーカウント」に近い状態で、公平に試合を再開するための手段としてスクラムが選択されるのです。

似ているようで違う?モール・アンプレーアブルとの違い

ここが今回の解説で最も重要なポイントであり、中級者でも混乱しやすい部分です。「ラック」でのアンプレーアブルと、「モール」でのアンプレーアブルは、再開時のボールの所有権が真逆になることをご存知でしょうか。

そもそもモールとは何か

ラックが「地面にあるボール」を巡る密集戦であるのに対し、モールは「選手が立ったまま持っているボール」を巡る密集戦です。ボールキャリアーに対して相手選手が掴みかかり、そこに味方選手がバインドして(くっついて)塊となり、立ったまま押し合う状態を指します。

この「ボールが地面にあるか(ラック)、浮いているか(モール)」の違いが、アンプレーアブル時の判定に天と地ほどの差を生みます。

モール・アンプレーアブルは「守備側」のボール

もし、モールが形成された後に動きが止まり、ボールが出せなくなってアンプレーアブルが宣せられた場合、再開のスクラムは「ボールを持っていなかったチーム(守備側)」の投入となります。

これは通称「パイルアップ」とも呼ばれ、守備側にとってはビッグプレー(ターンオーバー)となります。なぜなら、守備側が体を張って相手の全身を食い止め、ボールを出させないように封じ込めたという「守備の功績」が称えられるからです。

ラックの場合は「攻撃継続(攻撃側ボール)」が基本ですが、モールの場合は「攻撃失敗(守備側ボール)」となる。この違いは試合の流れを大きく左右します。

簡単な覚え方

● ラック(地面)で止まる = 攻撃側のボール(継続)
● モール(立ったまま)で止まる = 守備側のボール(ターンオーバー)

チョークタックルという守備戦術

この「モール・アンプレーアブル」のルールを逆手に取った守備戦術が、「チョークタックル」です。タックルをする際、相手を地面に倒さず、わざと立ったまま抱え込みます。

相手を立った状態に維持し、ボールをロックしてモールを形成させてしまえば、その瞬間にレフェリーが「モール!」とコールします。そこから動きを止めてしまえば、アンプレーアブルでマイボールスクラムを獲得できるのです。

ラックになるのを防ぎ、あえてモールにしてボールを奪う。これは現代ラグビーにおける高度な守備テクニックの一つです。

レフェリーのシグナルで見分ける

ラックかモールか、際どい場面でアンプレーアブルになったとき、レフェリーのジェスチャーに注目してください。

レフェリーが片方の腕を水平に回すような仕草(スクラムの合図)をした後、攻撃側の陣地を指せば「ラック・アンプレーアブル(攻撃継続)」、守備側の陣地を指せば「モール・アンプレーアブル(ターンオーバー)」です。

観客席からはボールが見えなくても、レフェリーがどちらのチームを指差したかを見るだけで、その密集がラック扱いだったのかモール扱いだったのかを判別することができます。

アンプレーアブルを防ぐための攻撃側の工夫

攻撃側にとって、ラックでのアンプレーアブルは攻撃権こそ維持できるものの、リズムが途切れ、相手に陣形を整える時間を与えてしまうため、決して歓迎できるものではありません。ボールをスムーズに出すために、選手たちはどのような工夫をしているのでしょうか。

ロングプレース(ボールを遠くに置く)

タックルされて倒れた選手(ボールキャリアー)は、ただ倒れるだけではありません。自分の体を「一本の棒」のように長く伸ばし、味方陣地側へ最大限手を伸ばしてボールを置きます。これを「ロングプレース」や「ペンシル(鉛筆)」と呼びます。

ボールを相手から遠ざけることで、相手選手がボールに絡むのを防ぐと同時に、味方のサポートプレーヤーがボールを跨ぎやすくします。ボールが体の近くにあると、敵味方が重なった際に埋もれやすくなりますが、遠くに置けばクリアな状態を保ちやすくなります。

二人目の寄りの速さと「剥がし」

ボールキャリアーが倒れた直後、いかに早く二人目の味方(サポートプレーヤー)が到着するかが勝負です。サポートが遅れると、敵選手にボールを囲まれたり、ジャッカルに入られたりしてアンプレーアブルのリスクが高まります。

サポートに入った選手は、ボールの上に覆いかぶさる敵選手を力強く押しのけ(クリーンアウト)、ボール周辺を「掃除」します。この掃除作業が徹底されていれば、ボールは綺麗に露出し、スクラムハーフが素早くパスを出すことができます。

スクラムハーフのコミュニケーション

密集のすぐそばにいるスクラムハーフ(背番号9)の声かけも重要です。彼らはラックに巻き込まれている味方に対して「どけ!」「またげ!」「ヒール(足で掻き出せ)!」と具体的な指示を大声で飛ばしています。

ボールが足に挟まって見えない場合でも、味方選手が足を使って器用にボールを後方へ転がせば、アンプレーアブルを回避できます。スクラムハーフは司令塔として、密集の中のカオスをコントロールしているのです。

メモ:
最近では「ジャッカル」を狙ってくる相手を一瞬で剥がす「レスリング」のような技術も重要視されています。1秒でも遅れるとボールは埋もれてしまうため、ラック周辺は常に時間との戦いです。

守備側が狙うアンプレーアブルとジャッカルの関係

逆に守備側から見ると、ラックでのアンプレーアブルは「相手の攻撃を止めた」という意味で小さな勝利です。しかし、さらに大きな利益を得るために、守備側は常に「ジャッカル」との天秤にかけてプレーしています。

カウンターラックでボールを埋める

守備側がラック・アンプレーアブルを誘発させる主な手段は「カウンターラック」です。相手がラックを作った瞬間、守備側のフォワード数人が一気に結束して押し込みます。

相手を乗り越えてボールを奪えればベストですが、奪えなくても構いません。相手の密集を崩壊させ、ボールの上に選手を何人も倒れ込ませることで、ボールを出せなくしてしまうのです。こうなればレフェリーは笛を吹き、攻撃側のリズムを完全に断ち切ることができます。

ジャッカル失敗時の保険としてのアンプレーアブル

「ジャッカル」は、倒れた相手からボールを奪い取るプレーで、成功すれば「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を誘ってペナルティキックを得られます。これが守備側の最大の狙いです。

しかし、ジャッカルに入ったものの、相手のサポートが来て完全に奪い切れない場合があります。その時、ボールを抱えたまま膠着状態に持ち込めば、反則は取れなくてもアンプレーアブルに持ち込める可能性があります。

「ペナルティは取れなかったけれど、相手の攻撃を止めてスクラムにできた」というのは、守備側にとっては悪くない結果(プランB)なのです。

リスクとリターンの判断

ただし、守備側がアンプレーアブルを狙ってラックに人数をかけすぎるのはリスクも伴います。ラックに3人も4人も参加してしまうと、外側のディフェンスラインの人数が足りなくなり、もしボールを出された場合に一気にトライを奪われる危険があるからです。

また、無理にボールを埋めようとして膝をついてプレーしたり、倒れ込んだりすると「シーリング」等の反則を取られることもあります。賢いチームは、確実に止められると判断した時だけアンプレーアブルを狙いに行きます。

スクラムに自信があるチームの戦略

もし自分たちのチームが強力なスクラムを持っている場合、ラック・アンプレーアブルは非常に有効な戦略になります。「スクラムになれば相手からペナルティを奪える」という自信があれば、あえてボールを奪いに行かず、ラックを停滞させてスクラム再開を選択させることもあるのです。

まとめ:ラックのアンプレーアブルを理解して観戦を楽しもう

まとめ
まとめ

今回は「ラックにおけるアンプレーアブル」について詳しく解説してきました。一見すると、単に試合が止まっただけのように見えるシーンでも、そこには選手たちの駆け引きと、細かいルールの適用が存在しています。

最後に、今回の記事の要点を振り返っておきましょう。

まとめ

● ラック・アンプレーアブルは、ボールが密集で出なくなった際の安全措置。
● 再開方法はスクラム。基本は「前に進んでいたチーム」のボールになる。
● 優劣がない場合は、「攻撃側(ボール保持側)」のボールになる。
モール・アンプレーアブルは守備側のボール(ターンオーバー)になるので要注意。
● 守備側はスクラムを得るための「プランB」としてアンプレーアブルを狙うことがある。

次にラグビーの試合を観戦する際は、密集で笛が鳴った後、レフェリーがどちらの手を挙げ、ラック(地面)だったのかモール(立った状態)だったのかをチェックしてみてください。

「あ、今はラックで押していたから攻撃側のボールだな」や「モールが止まったからターンオーバーだ!」と分かるようになれば、ラグビー観戦の面白さは格段にアップするはずです。

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