ラグビーの試合を見ていると、「フランカー」というポジションの選手たちが、グラウンドのあらゆる場所で激しく体をぶつけ合っている姿を目にします。しかし、同じフランカーでも背番号が「6番」と「7番」に分かれており、それぞれ「オープンサイド」「ブラインドサイド」と呼ばれていることをご存じでしょうか。「なんとなく左右の違いだと思っていた」という方も多いかもしれません。実はこの2つの役割には、明確な違いと、チームの勝敗を分けるほどの深い戦略が隠されているのです。
この記事では、ラグビー初心者の方から「もっと詳しく戦術を知りたい」という中級者の方に向けて、フランカーのオープンとブラインドの違いを、やさしく、そして徹底的に深掘りして解説します。6番と7番、それぞれの役割を知ることで、次の試合観戦が劇的に面白くなるはずです。それでは、フィールドの格闘家たち、フランカーの世界をのぞいてみましょう。
フランカーのオープンとブラインドの違いを基礎から理解する

ラグビーにおける「フランカー」は、フォワード(FW)の中でも特に運動量が求められるポジションです。スクラムの側面に位置することから「Flanker(側衛)」と呼ばれますが、現代ラグビーでは、単に左右に位置するだけでなく、「オープンサイド」と「ブラインドサイド」という役割分担が主流になっています。まずは、この言葉の定義と基本的な違いについて整理していきましょう。
「オープンサイド」と「ブラインドサイド」の言葉の意味と定義
「オープンサイド(Open Side)」とは、スクラムやラックなどの密集(ブレイクダウン)から見て、タッチライン(グラウンドの端の線)までの距離が「広い方」のサイドを指します。攻撃側にとってはスペースが大きく広がっており、ボールを大きく展開してトライを狙うためのメインステージとなります。逆に守備側にとっては、広大なスペースを守り切らなければならない危険なエリアです。
一方、「ブラインドサイド(Blind Side)」は、密集から見てタッチラインまでの距離が「狭い方」のサイドを指します。スペースが狭いため、華麗なパス回しよりも、フィジカルを活かした力強い突進や、サイドライン際での密集戦が中心となります。「ブラインド(死角)」という名の通り、狭いエリアを突く奇襲攻撃が仕掛けられる場所でもあります。
背番号6番と7番はどうやって決まるのか?
世界的な標準(特にニュージーランドや日本など)では、一般的に背番号「6番」がブラインドサイドフランカー、「7番」がオープンサイドフランカーを務めます。これは固定されたルールではありませんが、多くのチームがこのナンバリングを採用しています。試合中、スクラムを組む位置が変わるたびに、6番と7番の選手は「広い方はどっちだ?」「狭い方はどっちだ?」と判断し、左右の立ち位置を入れ替えます。
これを「オープン・ブラインド制(左右入替制)」と呼びます。例えば、グラウンドの右端近くでスクラムになった場合、左側に広大なスペース(オープンサイド)が生まれます。このとき、7番の選手はスクラムの左側に付き、6番の選手は右側(狭いブラインドサイド)に付きます。常に自分の得意な「広さ」のエリアを担当するために、彼らはセットプレーのたびにポジションを移動しているのです。
日本で昔よく使われていた「左右フランカー制」との違い
実は、かつての日本ラグビーや一部の国では、オープン・ブラインド制ではなく「左右固定制(レフト・ライト制)」が主流でした。これはシンプルに、「6番は常にスクラムの左側」「7番は常にスクラムの右側」につくというスタイルです。この方式のメリットは、移動の手間がなく、セットプレーへの準備が早くできることです。
しかし、現代ラグビーでは戦術が高度化し、選手の役割がより専門的になりました。「足が速くてボールハントが得意な選手(7番タイプ)」は、常に広いスペースでプレーさせたほうがチームにとって有利です。そのため、現在では高校生や大学生のレベルでも、左右固定ではなく、役割に応じたオープン・ブラインド制を採用するチームが圧倒的多数となっています。
なぜ役割を分ける必要があるのか?
フランカーの役割を明確に分ける最大の理由は、「適材適所」で効率よくフィールドをカバーするためです。ラグビーのグラウンドは広大で、フォワードの選手がすべてのエリアを走り回るには限界があります。そこで、広いスペースを守るスペシャリスト(オープンサイド)と、狭い密集地帯を制圧するスペシャリスト(ブラインドサイド)を育成し、分業させるシステムが定着しました。
もし役割を分けずに左右固定にしてしまうと、足の遅いパワー型の選手が広いオープンサイドを守らなければならない場面が生まれ、相手の快速バックスに簡単に抜かれてしまうリスクがあります。逆に、小柄なスピード型の選手が狭いサイドで大型選手とぶつかり合うことになり、フィジカルで圧倒される可能性もあります。これらのミスマッチを防ぐために、役割分担は現代ラグビーにおいて必須の戦術となっているのです。
オープンサイドフランカー(7番)の特徴と役割

オープンサイドフランカーは、一般的に背番号「7番」を背負う選手です。彼らはチームの中で最もボールに絡む回数が多く、試合の流れを左右する重要なポジションです。広いスペースをカバーするために、フォワードでありながらバックス並みの走力と、尽きることのないスタミナが求められます。ここでは、オープンサイドフランカーの具体的な仕事内容を見ていきましょう。
「ジャッカル」のスペシャリストとしての使命
オープンサイドフランカーの代名詞とも言えるプレーが「ジャッカル」です。これは、タックルで倒れた相手選手からボールを奪い取る、あるいは相手の反則(ノット・リリース・ザ・ボール)を誘うプレーのことを指します。広いスペースではタックルが起こりやすく、ボールが孤立する瞬間が頻繁に訪れます。その一瞬の隙を見逃さず、獲物を狩る動物のようにボールに飛びつくのが7番の最大の仕事です。
ジャッカルを成功させるためには、相手よりも速くタックルの地点(ブレイクダウン)に到達するスピードと、強烈な相手のサポート選手に押し剥がされない強靭な足腰、そして瞬時の判断力が必要です。世界的な名フランカーと呼ばれる選手の多くは、このジャッカルの能力がずば抜けて高く、たった一人で相手の攻撃のチャンスをピンチに変えてしまう力を持っています。
広大なスペースを埋める「リンクプレーヤー」
攻撃面において、オープンサイドフランカーは「リンクプレーヤー(つなぎ役)」としての役割を担います。広いオープンサイドには味方のバックス(BK)たちが展開していますが、フォワードとバックスの間をつなぐ中継地点として、7番の選手が顔を出すことが多くあります。パスを受けてそのまま突破するだけでなく、すぐに味方にパスを返して攻撃を継続させるなど、潤滑油のような働きが求められます。
また、味方がタックルされて倒されたとき、最初にその地点に駆けつけてボールを守る(オーバーザトップなどの反則を防ぎ、ボールを確保する)のも、足の速いオープンサイドフランカーの重要な任務です。彼らが一歩でも遅れると、相手にボールを奪われてしまいます。「誰よりも早く、どこへでも走る」。これがオープンサイドフランカーに課せられた過酷な要求です。
守備範囲の広さとタックルの質
ディフェンスにおいても、オープンサイドフランカーはチームの守備の要です。彼らはスクラムやラインアウトからボールが出た瞬間、相手のスタンドオフ(10番)やセンターなどのキープレーヤーに向かって猛ダッシュし、プレッシャーをかけます。広いエリアを守るため、横方向への移動スピードも重要です。
さらに、ただタックルして倒すだけでなく、「起き上がって次のプレーに移る速さ」も求められます。一度タックルして終わりではなく、すぐに立ち上がって次のタックルへ向かう、あるいはボールを奪いに行く。この「二度動き、三度動き」ができる運動量こそが7番の真骨頂であり、80分間休むことなく動き続ける姿は、観客の心を打ちます。
ブラインドサイドフランカー(6番)の特徴と役割

華やかなプレーで目立つオープンサイドに対し、ブラインドサイドフランカー(主に6番)は「仕事人」や「掃除屋」と呼ばれることの多い、いぶし銀のポジションです。彼らが担当するのは、タッチライン際や密集周辺の狭く激しいエリア。派手さは少なくとも、チームの勝利には絶対に欠かせない、フィジカルの強さが求められる役割です。
フィジカルモンスターが支配する狭いエリア
ブラインドサイドフランカーには、オープンサイドよりもひと回り大きな体格と、強烈なパワーが求められます。狭いブラインドサイドは、相手フォワードが密集して突進してくる激戦区です。ここで当たり負けしてしまうと、相手にズルズルと前進を許し、防御ラインが崩壊してしまいます。
そのため、6番の選手は「第3のロック(4番・5番)」とも呼ばれるほど、大型の選手が起用される傾向にあります。相手の突進を真正面から受け止めて仰向けに倒す「ドミネートタックル」や、密集戦で相手を力づくで押し出すプレーなど、パワー勝負において絶対的な優位性が求められるのです。
ラインアウトのジャンパーとしての重要な機能
セットプレー、特にラインアウトにおいて、ブラインドサイドフランカーは重要な役割を果たします。身長が高く、ジャンプ力のある選手が多いため、チームの主要なジャンパー(ボールを空中でキャッチする役)の一人としてカウントされます。オープンサイドフランカー(7番)が地面でのボール争奪戦に特化して小柄な場合が多いのに対し、6番は空中の戦いも制する必要があります。
ラインアウトのサインプレーでは、6番がボールをキャッチしてそのままモール(密集)を組み、相手ゴールラインまで押し込むといった力技もしばしば見られます。キックオフのボールキャッチ役を任されることも多く、空中戦の安定感はブラインドサイドフランカーの腕の見せ所と言えるでしょう。
攻撃の起点を作る強力なボールキャリア
アタックの局面では、ブラインドサイドフランカーは強力な「ボールキャリア(ボールを持って突進する役)」として機能します。狭いサイドでボールをもらい、相手ディフェンスの壁に激しくぶつかって、1メートルでも前に出る。この泥臭いゲイン(前進)が、次の攻撃のリズムを生み出します。
また、密集(ラック)の掃除役、いわゆる「クリーニング」も重要な仕事です。味方が捕まったラックに猛スピードで突っ込み、相手の選手をなぎ倒してボールが出る道を確保する。この痛みを伴う献身的なプレーの積み重ねが、バックスの華麗なトライをお膳立てしています。目立たない場所で体を張り続ける6番の姿に注目すると、ラグビーの奥深さがより理解できるはずです。
試合観戦がもっと楽しくなる!スクラムとラインアウトでの動き

フランカーの役割の違いは、セットプレー(スクラムやラインアウト)の瞬間に最も顕著に表れます。試合中、レフリーの笛が鳴ってセットプレーになったとき、6番と7番がどのように動いているかに注目してください。そこには明確な意図と駆け引きが存在しています。
スクラム時のバインディングと飛び出しの速さ
スクラムを組む際、フランカーはプロップ(1番・3番)のお尻に片方の肩を当てて押します。このとき、オープンサイドフランカー(7番)は、スクラムからいつでも飛び出せるように、バインド(掴む動作)を調整しています。彼らの優先順位は「押すこと」以上に「素早く離れて守備に行くこと」にある場合が多いからです。
一方、ブラインドサイドフランカー(6番)は、スクラムの安定性を高めるために、より長く、より強く押し続けることが求められるケースがあります。狭いサイドを守るため、飛び出す距離が短い分、スクラムでのプレッシャーに力を注ぐことができるのです。スクラムが崩れたりボールが出た瞬間、獲物を狙って飛び出す7番と、壁となって立ちはだかる6番の動きの対比は見どころの一つです。
ラインアウト終了後のポジショニングの違い
ラインアウトが終わった直後の動きにも特徴があります。オープンサイドフランカーは、ラインアウトの列には加わらず、スクラムハーフの近くで「こぼれ球」を狙ったり、相手のスタンドオフへの突進に備えたりする位置取り(レシーバーの位置など)をすることがよくあります。
対照的に、ブラインドサイドフランカーはラインアウトの中に組み込まれ、ジャンパーやリフターとしてプレーします。そしてボールを確保した後は、そのままモールに参加して核となったり、すぐさま近場のラックに参加してボールを守ったりします。ラインアウトのセットアップを見ただけで、「あ、6番は中に入って7番は外で待機しているな」と分かれば、次にボールがどこへ動くか予想しやすくなります。
アタック・ディフェンスの切り替え時の反応速度
攻守が入れ替わる「トランジション」の瞬間、フランカーの判断力が試されます。例えば味方がボールを落として相手ボールになった瞬間(ターンオーバー)、オープンサイドフランカーは即座に守備モードに切り替え、最も危険なスペースを埋めに走ります。この反応速度が0.5秒遅れるだけで、相手に独走を許してしまいます。
ブラインドサイドフランカーは、攻守交代の瞬間、フィジカルを活かして相手のカウンター攻撃を「面」で止める役割を担います。俊敏に動く7番と、どっしりと構える6番。カオスな状況下で、二人が補完し合いながらチームの危機を救う連携プレーは、まさに阿吽の呼吸です。
日本代表や世界の名選手から見るプレースタイルの違い

ここまでは理論的な役割を解説してきましたが、実際の選手を例に挙げると、よりイメージが湧きやすくなります。日本代表や世界のスーパースターたちが、どのようにオープンとブラインドの役割を体現しているのか、あるいはどのように進化させているのかを紹介します。
世界最高峰のオープンサイドフランカーたち
オープンサイドフランカー(7番)の歴史を語る上で欠かせないのが、元ニュージーランド代表のリッチー・マコウです。彼は「ジャッカル」というプレーを世界に知らしめた伝説的な選手であり、ボールのあるところに常にマコウあり、と言われるほどの神出鬼没な動きでオールブラックスを常勝軍団に導きました。
また、オーストラリア代表のデイビッド・ポーコックやマイケル・フーパーも有名です。彼らは上背はありませんが、低い重心と強靭な足腰でボールを奪い取る能力に長けていました。日本代表では、ピーター・ラブスカフニ選手がこのタイプに近い働きをし、豊富な運動量でフィールド全域をカバーする献身的なプレーを見せています。
最強のブラインドサイドフランカーたち
ブラインドサイドフランカー(6番)の代表格と言えば、元ニュージーランド代表のジェローム・カイノでしょう。彼のタックルは「岩がぶつかってくるようだ」と恐れられ、セットプレーの安定感と強烈なボールキャリーでチームの屋台骨を支えました。南アフリカ代表のピーターステフ・デュトイも、2メートル近い長身を活かし、ロックのようなパワーとフランカーのスピードを兼ね備えた現代最強の6番の一人です。
そして日本代表のリーチ マイケル選手。彼は6番(ブラインドサイド)を務めることが多いですが、その運動量は7番にも引けを取りません。激しいタックル、ラインアウトでのジャンプ、そして誰よりも体を張り続ける精神力は、まさに理想的なブラインドサイドフランカーであり、チームの精神的支柱でもあります。
戦術の進化:「ダブル・オープンサイド」という考え方
近年のラグビーでは、戦術の進化に伴い、従来の枠組みに囚われない起用も増えています。その一つが「ダブル・オープンサイド」です。これは、本来7番タイプの選手(ジャッカルが得意で足が速い選手)を、あえて6番と7番の両方に配置する戦術です。
例えば、イングランド代表のエディ・ジョーンズ元HCは、トム・カリーとサム・アンダーヒルという二人の強力なジャッカラーを同時に出場させ、「カミカゼ・キッズ」と名付けてブレイクダウンを圧倒しました。このように、「役割の違い」は基本として存在しつつも、チームの戦略によっては柔軟に変化していくのが、現代ラグビーの面白いところです。
まとめ:フランカーのオープンとブラインドの違いを知ればラグビーはもっと面白い
ここまで、フランカーの「オープンサイド(7番)」と「ブラインドサイド(6番)」の違いについて詳しく解説してきました。一見すると同じように見えるポジションでも、求められる能力や役割には大きな違いがあることがお分かりいただけたでしょうか。
要点を振り返ると、以下のようになります。
【オープンサイドフランカー(主に7番)】
広いスペースを担当。スピード、スタミナ、そしてボールを奪う「ジャッカル」が最大の武器。常にボールを追いかけるハンター。
【ブラインドサイドフランカー(主に6番)】
狭いサイドを担当。強靭なフィジカル、タックル、ラインアウトでの強さが武器。チームを陰で支える仕事人。
この二人のフランカーが、それぞれの得意分野を活かしてグラウンドを制圧することで、チームは勝利に近づきます。6番が体を張って相手を止め、7番がその隙にボールを奪う。このコンビネーションこそがラグビーの醍醐味の一つです。
次回の試合観戦では、ぜひスクラムやラインアウトの際、フランカーたちがどう位置取りをしているか、そしてプレーが切れた後にどう動いているかに注目してみてください。「あ、今7番が広い方に回った!」「6番が狭いサイドで待ち構えている!」といった発見ができるようになれば、ラグビー観戦の楽しさは何倍にも広がるはずです。


