ラグビーの試合中、プロ選手が投げるまるで弾丸のような鋭いパス。あれこそが「スクリューパス」です。回転のかかったボールは風を切り裂き、遠くにいる味方の胸元へと吸い込まれるように届きます。「あんなパスを投げてみたいけれど、どうしてもボールがブレてしまう」「飛距離が伸びずに途中で落ちてしまう」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
実は、スクリューパスは単なる腕力ではなく、明確な「原理」と正しい「身体の使い方」さえ理解すれば、誰でも習得できるスキルです。ボールに回転がかかる仕組みを知り、指先の感覚から足の運びまでを連動させることで、あなたのパスは見違えるように変化します。この記事では、スクリューパスの基礎理論から、実践的なフォーム、そして一人でもできる練習方法までをわかりやすく解説します。基本をマスターして、グラウンドで輝く武器を手に入れましょう。
スクリューパスの原理と投げ方の基礎知識

まずは、なぜボールに回転をかける必要があるのか、その科学的な理由とメリットを理解しましょう。原理を知ることで、練習中の意識が変わり、上達のスピードが格段に上がります。
なぜボールが回転すると安定するのか?
ラグビーボールのような楕円球が、回転することで空中で安定する現象には「ジャイロ効果」という物理的な原理が働いています。これは、回転している物体がその姿勢を維持しようとする力のことです。コマが回っている間は倒れないのと同じ理屈で、ボールも自身の軸を中心に高速で回転させることで、空中での姿勢が乱れにくくなります。
もし回転がかかっていないと、ボールは空気抵抗を不規則に受けてしまい、風にあおられて軌道が予測不能な動きをしてしまいます。スクリューパス特有のキレのある弾道は、このジャイロ効果によって先端が常に進行方向を向くことで生まれるのです。まずは「回転=安定」という基本原則を頭に入れておきましょう。
空気抵抗を減らして飛距離を伸ばす仕組み
スクリューパスの最大の武器は「飛距離」です。これには空気抵抗が大きく関係しています。ボールが回転せず、横向きや不規則な状態で飛んでいくと、ボールの広い面積が空気にぶつかり、大きな抵抗を受けてすぐに失速してしまいます。
一方で、きれいな回転のかかったスクリューパスは、ボールの尖った先端が進行方向を向いたまま突き進みます。これにより、空気を受け流す形となり、抵抗を最小限に抑えることができます。結果として、初速が落ちにくく、投げた力がそのまま距離へと変換されるのです。遠くの味方へパスを通すためにスクリューパスが必須とされるのは、この「空気の壁」を効率よく突破できる唯一の方法だからです。
パススピードと到達時間の短縮によるメリット
試合において、パススピードは攻撃のテンポを決める重要な要素です。スクリューパスは空気抵抗が少ない分、滞空時間が短く、素早く味方の手元に到達します。この「コンマ数秒」の違いが、ディフェンスに隙を与えるかどうかの分かれ目になります。
例えば、ディフェンスラインが迫ってくる状況で、ふわりとした山なりのパスを投げれば、ボールが届く前に味方が捕まってしまいます。しかし、鋭いスクリューパスであれば、ディフェンスが詰める前に味方がボールを受け取り、余裕を持って次のプレー(ランやキック)に移行できます。つまり、スクリューパスを習得することは、自分だけでなくチーム全体の攻撃力を底上げすることに繋がるのです。
正しいフォームとボールの持ち方

原理を理解したところで、次は具体的な「形」を作っていきましょう。スクリューパスが上手くいかない原因の多くは、実は投げる前の「持ち方」や「構え」にあります。ここでは4つのポイントに分けて詳しく解説します。
パワーハンドとガイドハンドの役割分担
スクリューパスを投げる際、左右の手には明確な役割の違いがあります。これを理解していないと、両手でなんとなく投げてしまい、回転がかかりません。右利きの人が右から左へパスを投げる場合、右手(後ろの手)が「パワーハンド」、左手(前の手)が「ガイドハンド」となります。
「パワーハンド」は、ボールに推進力を与え、回転をかけるための主役です。一方で「ガイドハンド」は、ボールの飛び出す方向や角度を調整する舵取り役です。初心者のうちは、ガイドハンドに力が入りすぎて回転を止めてしまうことがよくあります。あくまで「後ろの手で押し出し、前の手は添えて導く」という力加減のバランスを意識することが重要です。
回転を生み出すための指の位置と広げ方
ボールのどこを持つかは、回転の質を左右します。パワーハンド(後ろの手)は、ボールのお尻部分(端)ではなく、中心よりも少し後ろ側の膨らみを持地ます。この時、指をできるだけ大きく広げることがポイントです。指の間隔が狭いとボールに力が伝わりきらず、すっぽ抜ける原因になります。
特に重要なのが小指と薬指でのホールド感と、親指の位置です。ボールの縫い目やグリップを利用し、指の腹全体でボールを包み込むように持ちましょう。ガイドハンド(前の手)は、ボールの前方上部を軽く支える程度にします。両手がボール上で前後にずれた位置関係になるのが、スクリューパス特有の持ち方です。
予備動作としてのテイクバックと肘の高さ
投げる直前の動作、いわゆる「テイクバック」も大切です。パスを投げたい方向とは逆の腰付近にボールを一度引きますが、この時に肘が体にくっつきすぎていると、腕を振るスペースがなくなり、窮屈なパスになってしまいます。
肘を軽く張り、脇の下に拳一つ分くらいのスペースを作るイメージを持ちましょう。また、テイクバックの瞬間にボールの先端を少し上に向けておくと、リリースの際の手首の角度が自然になり、きれいな回転がかかりやすくなります。深く引きすぎるとモーションが大きくなり相手に読まれてしまうので、腰の回転で素早く引ける範囲に留めるのがコツです。
【重要】インパクトからフォロースルーへの流れ
パスの良し悪しが決まるのが、ボールを離すリリース(インパクト)の瞬間から投げ終わった後のフォロースルーです。ここで意識すべきは「腕を振り切る」ことです。ボールを離した瞬間に動作を止めてしまうと、力が途中で途切れ、パスが失速します。
投げたい相手(ターゲット)に向かって、両腕をまっすぐ伸ばし切るようにフォロースルーを行います。この時、手のひらが外側を向くように親指を下へ弾く動きを加えることで、強い回転がかかります。「ターゲットを指差す」ような形でフィニッシュすることで、コントロールも安定します。美しいフォロースルーは、美しいパスの証です。
回転をかけるための身体のメカニズム

手先だけの操作では、強いスクリューパスは投げられません。全身の力を指先に伝える連動性が必要です。ここでは、回転を生み出すための身体内部の動きに焦点を当てます。
下半身の主導による運動連鎖の活用
「パスは腕で投げるもの」と思われがちですが、実際は「足と腰」で投げます。特に長い距離を投げる場合、下半身の安定と体重移動が不可欠です。投げる方向に対して踏み込んだ足に、後ろ足から体重を乗せていく一連の流れがパワーの源です。
まず、軸足(後ろ足)で地面をしっかりと捉え、腰をターゲット方向へ素早く回転させます。この腰の回転が上半身、肩、肘、そして手首へと伝わっていく「運動連鎖(キネティックチェーン)」を意識してください。下半身が固定されたまま上半身だけで投げようとすると、身体が開きやすくなり、パスの軌道が定まりません。へそを相手に向けるようなイメージで腰を回しましょう。
手首のスナップと「親指で弾く」感覚
ボールに鋭い回転を与える最後のスイッチが手首(リスト)のスナップです。腕を押し出す動作の最後に、ドアノブを回すように、あるいはうちわを扇ぐように手首を返します。
ここで重要なキーワードが「親指の弾き」です。パワーハンドの親指で、ボールの表面を強く擦り上げる(あるいは押し下げる)ように弾くことで、強力な回転が生まれます。単に押すだけでなく、指先でボールに摩擦を与える感覚を掴んでください。「押し出し7割、回転3割」のイメージから始め、徐々に回転をかけるスナップの強さを上げていくと、スムーズに習得できます。
腕の内旋運動と押し出しのバランス
解剖学的な動きで言うと、スクリューパスは腕の「内旋(ないせん)」という動きを伴います。腕を伸ばしながら、親指が下を向くように腕全体を内側にねじる動作です。このねじりが、ボールの回転軸を安定させます。
しかし、回転をかけようと意識しすぎて、ねじる動作ばかりが強くなると、肝心の「前に飛ばす力」が弱くなります。まずはボールを相手の胸に「突き刺す」ように直線的に押し出すことを最優先してください。その直線の力のベクトルの中に、内旋運動をブレンドしていくイメージです。押し出す力がベースにあって初めて、回転が活きてくることを忘れないでください。
初心者が陥りやすいミスと改善策

練習を重ねてもなかなか上手くいかない場合、特定の「悪い癖」がついている可能性があります。よくあるミスとその原因を知ることで、自分のフォームを修正するヒントになります。
ボールが山なりになってお辞儀してしまう
パスの後半でボールの先端が下を向き、失速して落ちてしまう(お辞儀する)現象。これは非常によくある悩みです。最大の原因は「肘の下がり」と「すくい上げ」です。
リリースする瞬間に肘が下がっていると、ボールを撫でるような力が加わり、上から下への回転がかかりやすくなってしまいます。また、ボールを高く上げようとして下からすくい上げるようなフォームになっている場合も同様です。改善策としては、テイクバックからリリースまで、肘の高さを一定に保つこと。そして、地面と平行なラインを通して、ボールを「押し込む」意識を持つことが大切です。
回転がかからずボールがブレる理由
ボールが空中でゆらゆらと揺れたり、回転が弱かったりするのは、左右の手の力が喧嘩している可能性があります。特に、ガイドハンド(前の手)がボールを離すのが遅れると、パワーハンドがかけた回転を邪魔してしまいます。
ガイドハンドはあくまで方向を決めるガイドレールです。リリースの直前にスッと離し、パワーハンド一本で押し切る時間を確保する必要があります。また、ボールの中心を捉えられていない場合もブレの原因になります。練習では、わざと片手(パワーハンドのみ)で投げてみて、きれいな回転がかかるポイントを探すのも効果的な修正方法です。
狙った方向に飛ばない・コントロールが定まらない
回転はかかっているのに、相手の頭上や足元、あるいは前後にとんでもない方向へ飛んでいく場合。これは「フォロースルー」と「目線」のズレが原因です。
人間は「見ている場所」に手を伸ばす習性があります。パスを投げる瞬間、ボールを見すぎていたり、相手のいないスペースを見ていたりしませんか? 投げる前からターゲット(相手の胸)をしっかりと見据え、投げ終わった後の指先がそのターゲットを指しているか確認してください。指先が外を向いていればパスは外へ、下を向いていれば下へ行きます。フィニッシュの形を鏡でチェックするのもおすすめです。
上達するための効果的な練習方法

理論とフォームがわかったら、あとは反復練習あるのみです。ここでは一人でもできる基礎練習から、ペアで行う実践的なドリルまで紹介します。
一人でできる:仰向け天井スロー
自宅でもできる最も効果的な基礎練習です。床やベッドに仰向けに寝転がり、ボールを真上に投げてキャッチします。この練習の目的は、重力に逆らって真上に投げることで「手首のスナップ」と「指のかかり」を確認することです。
天井に向かってまっすぐ上がり、そのまま手元に落ちてくれば、左右のバランスが良い証拠です。回転が甘いとボールはふらつきます。手首をしっかりと返し、天井に指差すフォロースルーを意識してください。数百回繰り返すことで、指先の繊細な感覚が養われます。
ペアで行う:膝立ちパスと座りパス
パートナーがいる場合は、お互いに膝立ち、またはあぐらをかいて座った状態でパス交換を行います。下半身を固定することで、上半身(特に体幹の回旋と腕の振り)の使い方に集中できる練習です。
足の力が使えない分、しっかり腰を捻り、腕を振り切らないと相手に届きません。最初は近い距離(3〜5メートル)から始め、互いの胸元へ強いパスを投げ込みます。慣れてきたら徐々に距離を伸ばし、上半身の筋肉だけでどれだけ飛ばせるかチャレンジしてみましょう。これができれば、立って足を使った時に驚くほど軽く投げられるようになります。
動きながら投げる:ランニングパスの導入
最終段階は、実戦を想定した「動きながら」のパスです。止まった状態では投げられても、走りながらだとフォームが崩れる人は多いです。最初はゆっくりとしたジョギング程度のスピードで、二人並んで走りながらパス交換をします。
重要なのは、走る方向(前)に対して、身体を横に向けて投げる(横)という「ねじれ」の動作です。走りながらへそを相手に向け、フォロースルーをした後も数歩はそのままの手の形を維持する意識を持ちましょう。この練習を通じて、スピードに乗った状態での重心移動とリリースのタイミングを身体に染み込ませていきます。
スクリューパスの投げ方と原理のまとめ
スクリューパスは、力任せに投げるものではなく、理にかなった身体の使い方と物理的な原理によって成立するスキルです。最後に、今回解説した重要なポイントを振り返りましょう。
【スクリューパス習得の要点】
・原理:ジャイロ効果による安定と、空気抵抗の削減が飛距離を生む。
・持ち方:パワーハンド(後ろ)で押し、ガイドハンド(前)は添えるだけ。
・フォーム:肘を下げず、腰の回転を使い、ターゲットに向かって腕を伸ばし切る。
・回転のコツ:親指で弾き、腕の内旋運動を使ってスナップを効かせる。
・練習:仰向けスローで指先の感覚を磨き、座りパスで体幹を鍛える。
最初は回転がかからず、もどかしい思いをするかもしれません。しかし、今回紹介した「原理」を意識しながら、指の位置や肘の高さを少しずつ調整していけば、必ず「指にかかる」感覚が掴める瞬間が訪れます。その感覚さえ掴めれば、あなたのパスは劇的に進化します。焦らず、基本を大切に練習を続けて、グラウンドのどこからでもチャンスメイクできる素晴らしいパサーを目指してください。



