ラグビーの試合会場で、選手と観客が一体となって歌う「応援歌」の存在をご存じでしょうか。激しいぶつかり合いが繰り広げられるラグビーですが、スタジアムに響き渡る歌声には、選手を鼓舞し、勝利へと導く大きな力が込められています。特に2019年のワールドカップ日本大会以降、ある楽曲が「チームとファンをつなぐ歌」として定着し、大きな話題となりました。
この記事では、ラグビー日本代表の応援で欠かせない定番ソング「ビクトリーロード」の由来や歌詞の意味から、観戦時に知っておきたい世界のアンセム、そして応援のマナーまでを詳しく解説します。これからラグビー観戦に行く方も、テレビの前で応援する方も、歌の意味を知ることで観戦がもっと楽しく、熱くなるはずです。
日本ラグビーの応援歌といえばこれ!「ビクトリーロード」

現在のラグビー日本代表戦において、最もポピュラーで、スタジアム全体が一つになれる歌が「ビクトリーロード」です。2019年のワールドカップで選手たちが歌い始めたことをきっかけに、またたく間にファンへと広がりました。まずは、この歌がどのようにして生まれたのか、その感動的なエピソードをご紹介します。
元ネタはジブリ映画でも有名な「カントリー・ロード」
「ビクトリーロード」のメロディは、誰もが一度は聴いたことがある名曲「カントリー・ロード(Take Me Home, Country Roads)」がベースになっています。日本ではスタジオジブリの映画『耳をすませば』の主題歌としても馴染みが深く、老若男女問わずリズムに乗りやすいのが特徴です。
原曲の明るく前向きなメロディラインはそのままに、歌詞をラグビー日本代表のために書き換えた替え歌が「ビクトリーロード」です。難しい節回しがないため、初めて観戦に来た人でもすぐに口ずさめる親しみやすさが、爆発的な浸透の理由の一つと言えるでしょう。
選手発信で生まれた「チームを一つにする」ための歌
実はこの歌、プロの作詞家が作ったものではなく、当時の日本代表選手たちが自ら作り上げたものです。2019年大会に向けた厳しい合宿中、キャプテンのリーチ・マイケル選手が「チーム文化を深めるために、みんなで歌える歌を作ってほしい」と提案したことがきっかけでした。
この大役を任されたのは、当時チームのムードメーカーだった山本幸輝選手と三上正貴選手です。彼らは、外国出身選手も多い日本代表において「誰でも知っていて、歌いやすい曲」としてカントリー・ロードを選びました。厳しい練習の後に選手全員でこの歌を合唱することで、チーム(ONE TEAM)としての結束力が固まっていったのです。
歌詞に込められた「勝利」への熱い想い
歌詞は非常にシンプルですが、そこには選手たちの強い決意が込められています。基本的なフレーズは「ビクトリーロード、この道、ずっと行けば、最後は笑える日が来るのさ、ビクトリーロード」というものです。
「最後は笑える日が来る」という言葉には、どんなに苦しい練習や試合展開であっても、最終的には勝利を掴んで笑顔で終わろうというポジティブなメッセージが詰まっています。この歌詞が、ワールドカップで強豪国に立ち向かう選手たちの背中を押し、私たちファンの心にも深く刺さりました。
スタジアムで一緒に歌うためのポイント
試合会場で「ビクトリーロード」を歌うタイミングは、主に試合前のウォーミングアップ中やハーフタイム、そして試合後の勝利の瞬間などです。大型ビジョンに歌詞が表示されることもありますが、短いフレーズなので覚えておくとより楽しめます。
歌う際は、手拍子をしながら元気よく声を出すのがポイントです。テンポが徐々に速くなっていくバージョンもあり、会場のボルテージが一気に最高潮に達します。周りのファンと肩を組んだり、笑顔で歌ったりすることで、見ず知らずの隣の人とも「日本代表を応援する仲間」としての絆が生まれる瞬間は、現地観戦ならではの醍醐味です。
試合会場で盛り上がる!定番のアンセムとチャント

「ビクトリーロード」以外にも、ラグビーの試合会場では様々な歌や掛け声が響き渡ります。これらは「アンセム」や「チャント」と呼ばれ、試合の厳粛な雰囲気を作ったり、選手にパワーを送ったりする重要な役割を持っています。
国歌「君が代」斉唱が生み出す特別な空気感
代表戦の試合開始直前に行われる国歌斉唱は、スタジアムが最も神聖な空気に包まれる瞬間です。ラグビー日本代表の試合では、選手だけでなく、スタンドの観客も起立して大きな声で「君が代」を歌います。
また、ラグビーの国歌斉唱には、オペラ歌手などの独唱者がピッチに立つことが多いのも特徴です。数万人の観客と選手が声を合わせて国歌を歌う光景は圧巻で、これから始まる激闘への緊張感と期待感を高めてくれます。
ラグビーワールドカップのテーマ曲「World in Union」
「World in Union(ワールド・イン・ユニオン)」は、ラグビーワールドカップの公式テーマソングとして世界中で愛されている名曲です。クラシック音楽のホルスト組曲『惑星』の「木星(Jupiter)」のメロディをベースにしており、日本では平原綾香さんの「Jupiter」としても知られています。
この曲は「世界は一つ」というラグビーの精神を象徴しており、大会ごとに開催国の有名アーティストによって歌われます。2019年日本大会では、いきものがかりの吉岡聖恵さんが歌唱を担当しました。壮大で優しいメロディは、激しい試合の後のノーサイドの精神に寄り添うアンセムです。
選手を鼓舞する「ニッポン!」コールのタイミング
歌ではありませんが、応援に欠かせないのが「ニッポン!」コールです。攻撃のチャンスや、相手ゴールラインに迫った時、あるいはピンチを凌ごうとする時に自然発生的に起こります。
リズムは「チャチャチャ(手拍子)、ニッポン!」というシンプルなものです。特別な知識がなくてもすぐに参加できるため、初めての観戦でも周りに合わせて手拍子をするだけで、会場の熱気の一部になることができます。数万人の手拍子が揃った時の音圧は、選手にとって何よりのエネルギーとなります。
記憶に残る歴代のラグビー関連ソングとテーマ曲

テレビ中継やCMを通じて、J-POPのヒット曲がラグビーのイメージソングとして定着することも多々あります。これらの楽曲を聴くと、当時の熱狂や名シーンを思い出すというファンも多いのではないでしょうか。
2019年の熱狂を支えたB’zや嵐の楽曲
2019年の日本大会でスタジアムやテレビから頻繁に流れたのが、B’zの「兵、走る(つわもの、はしる)」です。リポビタンDのCMソングとして書き下ろされたこの曲は、泥臭く走る選手たちを「兵(つわもの)」と表現し、その力強いロックサウンドがラグビーの激しさと見事にマッチしました。
また、同大会の日本テレビ系テーマソングだった嵐の「BRAVE」も、多くのファンの記憶に刻まれています。男らしさと疾走感あふれる楽曲で、歌詞の中にもラグビーを連想させる言葉が散りばめられており、大会の盛り上げに大きく貢献しました。
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』と米津玄師「馬と鹿」
ラグビー人気を後押ししたTBS系ドラマ『ノーサイド・ゲーム』の主題歌、米津玄師さんの「馬と鹿」も、ラグビー応援歌として外せない一曲です。ドラマの感動的なシーンで流れたこの曲は、実際の試合会場でも頻繁に使用されるようになりました。
重厚なビートと感情的なボーカルは、傷つきながらも前に進もうとするラガーマンの姿と重なります。ワールドカップの試合終了後、選手たちが場内を一周する際にこの曲が流れたシーンは、多くのファンの涙を誘いました。
公式ソングが果たす役割とファン心理
こうしたタイアップ曲やテーマソングは、単なるBGM以上の意味を持ちます。音楽を聴くだけで試合の興奮が蘇る「アンカー(記憶の定着点)」としての役割を果たしているのです。
普段ラグビーを見ない層にとっても、好きなアーティストの楽曲がきっかけで興味を持つ入口となります。音楽とスポーツの融合は、ラグビーという文化をより広く、深く日本に根付かせるための重要な要素となっているのです。
知っておきたいラグビー応援のマナーと文化

ラグビーの応援には、他のスポーツとは少し異なる独特の文化やマナーがあります。これらを知っておくことで、より心地よく、そして選手にリスペクトを持って応援することができます。
キック前の静寂はリスペクトの証
ラグビー観戦において最も特徴的で、かつ重要なマナーが「プレースキック時の静寂」です。トライ後のゴールキックやペナルティキックの際、スタジアム全体が水を打ったように静まり返ります。
これは、集中力を極限まで高めているキッカーに対する最大限のリスペクト(敬意)の表れです。たとえ敵チームのキックであっても、ブーイングや妨害音を出すことは絶対にしません。「シーン」という静寂そのものが、ラグビー特有の緊張感ある応援スタイルなのです。静寂の後のキック成功時に送られる拍手は、敵味方関係なく温かいものです。
ジャージ着用やフェイスペイントの楽しみ方
スタジアムを赤と白の「桜のジャージ」で染めるのも、日本代表戦の醍醐味です。公式レプリカジャージを着て応援することで、選手との一体感が格段に高まります。
また、頬に国旗のフェイスシールを貼ったり、桜のエンブレムが入ったタオルマフラーを掲げたりするのも定番のスタイルです。近年では、着物をアレンジした衣装や、兜を模したヘッドギアなど、個性的なファッションで応援を楽しむファンも増えており、お祭り気分を盛り上げています。
敵味方関係なく称え合う「ノーサイド」の精神
試合終了の笛を「ノーサイド」と呼びます。これは「試合が終われば敵味方の区別(サイド)はなくなり、互いに健闘を称え合う仲間になる」というラグビーの精神を表す言葉です。
観客席でもこの精神は生きています。素晴らしいプレーには相手チームであっても拍手を送り、試合が終われば相手チームのファンとも「いい試合だったね」と握手を交わしたり、写真撮影をしたりする光景がよく見られます。この温かい雰囲気が、ラグビー観戦の大きな魅力です。
メモ: 試合終了後、選手たちが観客席に向かってお辞儀をする際も、勝ったチームだけでなく、負けたチームにも大きな拍手を送りましょう。最後まで戦い抜いた両チームへのリスペクトが、次の素晴らしい試合へと繋がります。
初心者でも安心!周りに合わせた応援スタイル
「ルールが難しそう」「応援の仕方がわからない」と不安に思う初心者の方もいるかもしれませんが、心配は無用です。基本的には、周りのファンの反応に合わせて拍手をしたり、手拍子をしたりするだけで十分に楽しめます。
ラグビーファンは総じてフレンドリーで、新規のファンを歓迎する傾向があります。わからないことがあれば隣の人に聞いてみると、親切に教えてくれることも珍しくありません。難しく考えず、まずはスタジアムの熱気を感じることから始めてみてください。
世界のラグビー応援歌・ハカ(Haka)との違い

日本代表の「ビクトリーロード」のように、世界各国の代表チームにもそれぞれ象徴的な歌や儀式が存在します。これらを知ると、対戦相手国への理解も深まり、国際試合がより面白くなります。
ニュージーランド代表「ハカ」の迫力と意味
世界最強軍団「オールブラックス」ことニュージーランド代表が、試合前に行う儀式「ハカ(Haka)」はあまりにも有名です。これは歌というよりも、先住民族マオリ族の伝統的な「ウォークライ(戦いの叫び)」です。
目を大きく見開き、舌を出し、体や太ももを叩いて相手を威嚇すると同時に、自らを鼓舞し、先祖や大地との繋がりを確認する神聖な儀式です。会場全体が静まり返り、ハカの叫びだけが響く時間は、ラグビーワールドカップにおける最大の見せ場の一つと言えます。対戦相手も肩を組んでこれを受け止める姿勢を見せ、最高の敬意を持って対峙します。
各国の愛称と独自の応援スタイル
ラグビー強豪国には、それぞれ独自の応援歌があります。例えば、アイルランド代表には「Ireland’s Call(アイルランズ・コール)」というアンセムがあります。アイルランド代表は政治的に分かれている「アイルランド共和国」と「北アイルランド」が合同でチームを組むため、国歌とは別に、ラグビーのための特別な歌として作られました。選手たちが肩を組み、涙を流しながら熱唱する姿は感動的です。
また、ウェールズ代表は「歌の国」とも呼ばれ、観客全員による国歌斉唱や賛美歌の合唱が非常に美しいことで知られています。スタジアムが巨大な合唱団のようになる光景は、ウェールズ戦ならではの特徴です。
イングランドの「Swing Low, Sweet Chariot」
ラグビーの母国、イングランド代表の応援歌として有名なのが「Swing Low, Sweet Chariot(スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット)」です。これは元々アメリカの黒人霊歌ですが、なぜかイングランドのラグビー会場で定着しました。
試合中に誰からともなく歌い始められ、ゆっくりとしたテンポで会場全体に広がっていきます。観客が手振りを交えながらこの歌を歌うと、ホームであるトゥイッケナム・スタジアムは独特の重厚な雰囲気に包まれます。このように、国によって応援の歌やスタイルが全く異なるのも、ラグビーの面白いところです。
まとめ:ラグビー応援歌を知って日本代表戦をもっと楽しもう
ラグビー日本代表の応援歌には、選手たちが自ら作り上げた「ビクトリーロード」のようなチームの絆を象徴する歌から、国歌、そしてJ-POPのヒット曲まで、様々な楽曲が存在します。それぞれの歌には、勝利への願いや、選手へのリスペクト、そしてラグビー特有の「ノーサイド精神」が込められています。
歌詞の意味や生まれた背景を知ることで、ただなんとなく聴いていた歌が、心揺さぶる特別なものへと変わります。次に日本代表戦を見る時は、ぜひ選手たちと一緒に「ビクトリーロード」を口ずさんだり、キックの前の静寂を感じたりしてみてください。その一体感こそが、ラグビー観戦の最大の魅力であり、日本代表を勝利へと押し上げる大きな力となるはずです。

