ラグビーで耳が湧く「餃子耳」とは?原因と対策を徹底解説

ラグビーで耳が湧く「餃子耳」とは?原因と対策を徹底解説
ラグビーで耳が湧く「餃子耳」とは?原因と対策を徹底解説
用具・入門・練習

ラグビーの試合や練習を見ていると、選手たちの耳が特徴的な形をしていることに気づいたことはありませんか?ゴツゴツと腫れ上がっていたり、固くなっていたりするその耳は、ラグビー界では通称「餃子耳」と呼ばれています。これからラグビーを始める方や、お子さんがラグビースクールに通い始めた保護者の方にとって、「耳が湧く」という現象は少し怖いイメージがあるかもしれません。この記事では、なぜ耳が変形してしまうのか、そのメカニズムから予防法、そしてなってしまった時の正しい処置までをやさしく解説します。正しい知識を身につけて、安全にラグビーを楽しみましょう。

ラグビーで耳が湧く(餃子耳)の正体とは

ラグビー選手の間で日常的に使われる「耳が湧く(わく)」という言葉ですが、これは医学的な正式名称ではありません。まずは、この現象が体の中でどのように起きているのか、そしてなぜ「餃子」と呼ばれるようになったのか、その正体を詳しく見ていきましょう。

「耳が湧く」の医学的な意味は耳介血腫

「耳が湧く」という現象は、医学的には「耳介血腫(じかいけっしゅ)」と呼ばれる症状です。私たちの耳の形を作っているのは「耳介軟骨(じかいなんこつ)」という弾力のある組織ですが、この軟骨とそれを覆っている皮膚(軟骨膜)は非常に薄い層で密着しています。ラグビーのプレー中に耳に強い摩擦や衝撃が加わると、この皮膚と軟骨の間が剥がれて隙間ができてしまいます。

剥がれてしまった隙間には、切れた毛細血管から出血した血液や体液が溜まっていきます。これが風船のように膨らんでしまった状態が「耳が湧く」という現象の正体です。つまり、何か特別な成分が湧き出ているわけではなく、耳の中で内出血が起き、逃げ場のない血液が溜まってパンパンに腫れ上がっている状態なのです。

なぜ「餃子耳」や「カリフラワーイヤー」と呼ばれるのか

「餃子耳」という呼び名は、腫れ上がった耳の形が焼く前のふっくらとした餃子に似ていることから日本で定着しました。耳の輪郭が曖昧になり、ボコボコとした突起ができる様子は、確かに餃子を連想させます。この呼び名はラグビーだけでなく、柔道やレスリング、相撲など、耳が擦れることが多い格闘技の世界でも共通して使われています。

一方、海外のラグビー界ではこの状態を「カリフラワーイヤー(Cauliflower Ear)」と呼びます。野菜のカリフラワーのように、表面が白っぽく凹凸のある塊になってしまう様子から名付けられました。餃子にせよカリフラワーにせよ、一度なってしまうと元のきれいな耳の形に戻すことは非常に難しいため、世界中のラガーマンにとって共通の悩みであり、ある種のシンボルともなっています。

湧いたばかりの耳は痛い?放置するとどうなる?

耳が湧いた直後、いわゆる「急性期」の状態では、多くの選手が激しい痛みを訴えます。耳全体が熱を持ち、ジンジンとした痛みが続きます。特に辛いのが、寝る時です。枕に耳が触れるだけで激痛が走るため、横向きで寝ることができず、ドーナツ枕を使ったり、腕で頭を支えたりして凌ぐ選手も少なくありません。触るとプヨプヨとしていて、液体が入っているのがわかります。

しかし、この痛みを我慢して放置していると、やがて溜まった血液や体液が体内で吸収されずに固まり始めます。これを「線維化」や「器質化」と呼びますが、軟骨のようにカチカチに硬くなってしまうのです。一度固まってしまうと、痛みはなくなりますが、変形した形は手術をしない限り元には戻りません。これが、ベテラン選手に見られる硬い餃子耳の完成形です。

なぜラグビー選手は耳が変形してしまうのか

日常生活を送っていて耳が湧くことはまずありません。では、なぜラグビー選手にはこれほど高い頻度で耳介血腫が発生するのでしょうか。それには、ラグビーという競技特有の激しいコンタクトプレーと、ポジションごとの役割が大きく関係しています。

スクラムで起こる耳への強烈な摩擦と圧力

ラグビーで耳が湧く最大の原因の一つが「スクラム」です。フォワードの選手たち8人が一塊となって押し合うスクラムでは、頭部に数百キロもの圧力がかかります。特に最前列で組むプロップやフッカーの選手は、相手フォワードと頭を交互に組み合わせる際、耳が相手の肩やジャージ、あるいは味方の体と強く擦れ合います。

スクラムを組む瞬間、「バインド」の掛け声とともに頭を相手のスペースにねじ込みますが、この時に耳が強く引っ張られたり、押しつぶされたりします。さらに、スクラムが崩れないように押し合っている間中、耳はずっと圧迫され続けています。この「強い圧迫」と「横方向へのズレ・摩擦」が同時に起こることで、耳の皮膚と軟骨が容易に剥離してしまうのです。

タックルやラックでの衝撃も原因になる

スクラムを組まないバックスの選手なら安心かというと、決してそうではありません。タックルに入った際、自分の頭を相手の腰や太ももに密着させますが、このインパクトの瞬間に耳に強い衝撃を受けることがあります。正しいタックルの姿勢では「頬を当てる」と指導されますが、激しい動きの中ではどうしても耳が当たってしまうことがあります。

また、密集戦である「ラック」や「モール」の状況下でもリスクは潜んでいます。倒れた状態でボールを奪い合う際、他の選手の膝が耳に当たったり、スパイクで踏まれたり、ジャージの硬い素材で擦られたりと、予期せぬ方向から力が加わります。このように、ラグビーのプレー中は常に耳への物理的ストレスに晒されていると言っても過言ではありません。

ポジション別に見る餃子耳のリスク

ラグビーには15のポジションがありますが、耳が湧くリスクはポジションによって大きく異なります。一般的にどのポジションがなりやすいのか、その傾向を整理してみましょう。

フォワード第1列(プロップ・フッカー)

最もリスクが高いポジションです。スクラムの最前線で直接相手と接触するため、耳への負担は全ポジション中最大です。ほとんどの選手が何らかの形で耳の変形を経験すると言われています。

フォワード第2列(ロック)

プロップのお尻の間に頭を入れてスクラムを押す役割です。両耳がプロップの体と強く擦れるため、両耳とも湧いてしまう選手が多いのが特徴です。ここも非常にリスクが高いポジションです。

フォワード第3列(フランカー・No.8)

スクラムでの圧力は第1・2列ほどではありませんが、タックル回数が非常に多いポジションであるため、タックルによる衝撃で耳を痛めるケースが目立ちます。

バックス(スクラムハーフ・スタンドオフ・センター・ウイング・フルバック)

フォワードに比べると確率は下がりますが、センターなど激しいコンタクトを繰り返すポジションでは耳が湧くこともあります。バックスで綺麗な餃子耳を持っている選手は、激しいタックラーである証拠とも言われます。

耳が湧いてしまった時の正しい処置と治療法

もし練習中に耳に違和感を覚えたり、練習後に耳が熱を持って腫れていることに気づいたりしたら、どうすれば良いのでしょうか。ここでは、耳が湧いてしまった直後の対応から、病院での治療法までを解説します。初期対応がその後の耳の形を左右します。

まずはアイシングで炎症を抑える

「耳が熱い」「触ると痛い」と感じたら、まずは冷やすことが鉄則です。氷嚢(ひょうのう)や保冷剤をタオルで包み、患部に当ててしっかりとアイシングを行いましょう。冷やすことで内出血の拡大を防ぎ、痛みや炎症を一時的に和らげることができます。練習直後だけでなく、家に帰ってからもお風呂などで温めるのは避け、冷やすことを優先してください。

ただし、アイシングはあくまで応急処置であり、溜まってしまった血液を無くすことはできません。腫れが引かない場合や、明らかに液体が溜まってプヨプヨしている場合は、迷わず専門の医療機関を受診する必要があります。自己判断で放置すると、どんどん血液が固まってしまい、治療が難しくなります。

耳鼻咽喉科や形成外科での治療

耳が湧いた場合の受診先は、一般的に「耳鼻咽喉科」または「形成外科」になります。病院では、注射器を使って溜まった血液を吸い出す処置(穿刺吸引)が行われます。針を刺すため多少の痛みは伴いますが、パンパンに張っていた圧力が抜けるため、処置後は痛みがスッと引くことが多いです。

血液を抜くと耳は元の形に戻りますが、実はこれで終わりではありません。剥がれた皮膚と軟骨の間にはまだ隙間があり、そのままにしておくと再び血液が溜まってしまいます。そのため、血を抜いた後は、皮膚と軟骨を再び密着させるための「圧迫固定」が非常に重要になります。医師の指示に従い、ガーゼや包帯でしっかりと圧迫を続ける必要があります。

ラグビー界独特の圧迫方法「ボタンやマグネット」

病院での圧迫固定に加えて、ラグビー選手たちの間では伝統的な「圧迫の工夫」が存在します。血を抜いた後の耳は、またすぐに膨らもうとします。そこで、耳の表と裏から何かで挟み込んで圧力をかけ続けるのです。よく使われるのが、大きめのボタンや強力なマグネット、あるいは洗濯バサミなどです。

耳の形に合わせて脱脂綿やガーゼを詰め、その上から洗濯バサミで挟んだり、強力磁石でサンドイッチにしたりします。見た目は少し異様ですが、こうして常に圧迫しておくことで、皮膚と軟骨が再癒着するのを助けます。ただし、圧迫しすぎると血流が悪くなりすぎて皮膚が壊死する危険もあるため、医師に相談しながら慎重に行う必要があります。

自己処理は絶対にNGです

自分で注射器を用意して血を抜こうとする選手が稀にいますが、これは絶対にやめましょう。消毒が不十分だと細菌が入り込み、軟骨膜炎という深刻な感染症を引き起こす恐れがあります。最悪の場合、耳が溶けて変形したり、高熱が出たりする危険があります。

餃子耳にならないための予防策とヘッドキャップ

一度なってしまうと完治が難しく、痛みも伴う餃子耳。できればなりたくないという選手も多いはずです。完全に防ぐことは難しいラグビーの特性ですが、リスクを大幅に減らすための予防策はいくつか存在します。

ヘッドキャップ(ヘッドギア)の正しい着用

最も基本的かつ効果的な予防法は、ヘッドキャップ(ヘッドギア)の着用です。高校生までは着用が義務付けられていますが、大学生や社会人でも耳の保護を目的に着用する選手は多くいます。ヘッドキャップは衝撃を吸収するだけでなく、耳が直接相手の体や地面と擦れるのを防ぐ防壁の役割を果たします。

ただし、サイズが合っていないと効果が半減してしまいます。ぶかぶかのヘッドキャップでは、プレー中にずれてしまい、結局ヘッドキャップの中で耳が擦れてしまうことがあるからです。自分の頭のサイズにぴったりとフィットし、耳の穴の位置が合っているものを選ぶことが重要です。最近では通気性が良く、滑りにくい素材のものも開発されています。

耳を保護するテーピング技術

ヘッドキャップが苦手な選手や、より強固に耳を守りたい選手が行うのが「耳へのテーピング」です。これは単に耳を隠すだけでなく、耳を頭部に密着させて固定することで、耳が引っ張られたり折れ曲がったりするのを防ぐ目的があります。

一般的な方法は、ビニールテープ(電気絶縁用の柔らかいテープ)を使用します。まず耳の上部を頭に押し付けるようにしてテープを巻き、ハチマキのように頭を一周させます。ビニールテープは伸縮性があり、表面がツルツルしているため、スクラムを組む際に相手との摩擦を減らし、スムーズに頭を入れることができるという利点もあります。ただし、締め付けすぎると頭痛の原因になるので加減が必要です。

ワセリンを塗って滑りを良くする

試合や練習の前に、耳の周りにワセリンをたっぷりと塗ることも有効な予防策の一つです。ワセリンを塗ることで皮膚の表面が滑りやすくなり、接触時の摩擦抵抗を減らすことができます。特にスクラムを組むフォワードの選手たちは、眉毛の上や耳の周りに厚めに塗ることが習慣になっています。

これは耳が湧くのを防ぐだけでなく、擦り傷や裂傷の予防にもなります。ヘッドキャップをかぶる場合でも、その下の耳にワセリンを塗っておくことで、ヘッドキャップ内での擦れを軽減できます。地味な対策ですが、毎日の積み重ねがきれいな耳を守ることにつながります。

餃子耳はラグビー選手の勲章?現代の捉え方

最後に、この「餃子耳」がラグビー文化の中でどのように捉えられているのか、その歴史的な背景と現代の意識の変化について触れておきたいと思います。

かつては「強さの証」「勲章」だった

日本のラグビー界では、長らく餃子耳は「努力の結晶」や「勲章」として肯定的に捉えられてきました。耳が湧くほど激しいスクラム練習に耐え、数え切れないほどのタックルを繰り返してきた証拠だからです。ラガーマン同士が初対面でも、相手の耳が湧いているのを見るだけで「お、かなりやっているな」「フォワードの選手だな」とリスペクトが生まれる、そんな文化がありました。

飲み会の席などでも、餃子耳は格好の話題になります。「どっちの耳が硬いか」「何回血を抜いたか」といったエピソードトークは、ラガーマン特有のコミュニケーションツールでもありました。痛みに耐えて練習を続けたという精神性が、この変形した耳に象徴されていたのです。

現代における安全とファッションへの意識変化

しかし、時代とともにその捉え方も少しずつ変わってきています。現代のスポーツ医学の観点からは、耳介血腫はあくまで「外傷」であり、予防すべき怪我の一つです。無理をして練習を続けるよりも、適切な処置をして早く治すこと、そしてヘッドキャップなどで予防することが推奨されています。

また、最近の若い選手たちはファッションや見た目を気にする傾向もあり、「できれば耳は湧かせたくない」と考える人も増えています。イヤホンが入らなくなったり、マスクの紐がかけにくかったりと、日常生活での不便さも無視できません。プロ選手の中には、現役引退後に形成手術を受けて耳の形を整える人もいます。餃子耳はリスペクトの対象でありつつも、必ずしも「ならなければならないもの」ではなくなっているのです。

日常生活での「あるある」な悩み
餃子耳になると、最近流行りのワイヤレスイヤホンが耳の穴に入らず、すぐに落ちてしまうという悩みをよく聞きます。また、耳の裏側まで腫れて固まると、メガネやサングラスが安定しなかったり、マスクをしていてもすぐに外れてしまったりといった地味なストレスを抱えることになります。

ラグビーの耳が湧く現象(餃子耳)についてのまとめ

まとめ
まとめ

ラグビー選手の耳が湧く「餃子耳(耳介血腫)」について、その原因や対策を解説してきました。この現象は、スクラムやタックルによる激しい摩擦や衝撃によって、耳の軟骨と皮膚の間に出血が起こることで発生します。放置すると血液が固まり、耳が永久に変形してしまうため、早めのアイシングと病院での処置が非常に重要です。

耳が湧くことは、激しい練習に耐えてきた証として尊敬される側面もありますが、日常生活での不便さや痛みも伴います。ヘッドキャップの着用やテーピング、ワセリンの活用など、適切な予防策を講じることでリスクを減らすことは可能です。これからラグビーを始める人も、すでにプレーしている人も、自分の体を守りながら長く競技を楽しむために、耳のケアにもぜひ関心を持ってみてください。

タイトルとURLをコピーしました