ラグビーは「紳士のスポーツ」と呼ばれますが、同時に身体と身体が激しくぶつかり合うコンタクトスポーツでもあります。これからラグビーを始める方や、お子さんがラグビースクールに通い始めた保護者の方にとって、やはり気になるのは「怪我」のことではないでしょうか。
「どんな怪我が多いの?」「防ぐ方法はあるの?」といった疑問を持つのは当然のことです。怪我の傾向と対策をあらかじめ知っておくことは、大きな事故を防ぎ、長く楽しく競技を続けるための第一歩となります。
この記事では、ラグビーで特に怪我が多い部位やその原因、そして今日からできる予防策について、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。正しい知識を身につけて、安全にラグビーを楽しみましょう。
ラグビーで怪我が多い部位ベスト4と特徴

ラグビーは全身を使うスポーツですが、激しい接触プレーや急激な方向転換が多いため、特定の部位に怪我が集中する傾向があります。ここでは、統計的にも特に発生頻度が高いとされる4つの部位について、どのような怪我が多いのかを具体的に解説します。
1. 頭部・顔面(脳振盪、切り傷)
ラグビーにおいて最も警戒すべき部位の一つが「頭部」です。タックルやスクラム、密集戦での接触により、脳振盪(のうしんとう)や顔面の切り傷が発生することがあります。特に脳振盪は、見た目に明らかな変化がなくても脳にダメージを受けている場合があるため、近年世界中で最も慎重に扱われている怪我の一つです。
また、スクラムを組むフォワードの選手などは、耳が擦れて内出血を起こす「耳介血腫(じかいけっしゅ)」、通称「ギョーザ耳」になることもあります。これはラグビー選手特有の勲章とも言われますが、適切な処置が必要です。
2. 肩・鎖骨(脱臼、骨折)
タックルをする側も受ける側も、強い衝撃を受けるのが「肩」周りです。相手の膝や腰に肩から飛び込むタックルの動作は、正しいフォームで行わないと肩関節の脱臼や、肩鎖関節(けんさかんせつ)の損傷を招くリスクがあります。
さらに、倒れ方や地面への着地の仕方によっては、鎖骨を骨折してしまうケースも少なくありません。肩の怪我は再発しやすいため(習慣性脱臼など)、受傷後のリハビリと筋力強化が非常に重要になります。
3. 膝(靭帯損傷、半月板損傷)
下半身の中で特に負担がかかるのが「膝」です。相手にタックルに入られて膝が内側に入ってしまったり、サイドステップで急激な方向転換をした際に膝がねじれたりすることで怪我が発生します。
代表的なものには、内側側副靭帯(MCL)や前十字靭帯(ACL)の損傷があります。これらは接触プレーだけでなく、走っている最中の着地ミスなど、誰にも触れられていない状況(非接触型)でも起こりうるため、ステップワークの多いバックスの選手も注意が必要です。
4. 足首(捻挫)
足首の捻挫は、ラグビーに限らず多くのスポーツで見られますが、ラグビーの場合は頻度が高いのが特徴です。タックルを受けて倒れる際に足首が不自然な方向に曲がったり、密集の中で他人の足を踏んでしまったりすることで発生します。
「たかが捻挫」と軽く見られがちですが、完全に治りきらないままプレーを続けると足首が不安定になり、膝や腰など他の部位への負担増につながることもあります。しっかりとした固定やリハビリが必要な部位です。
なぜ怪我が多いのか?発生しやすい3つのシチュエーション

ラグビーの怪我は、どのようなプレー中に起こることが多いのでしょうか。試合や練習の中で、特にリスクが高まる瞬間を知っておくことで、心の準備や危険回避につながります。ここでは代表的な3つの場面を見ていきましょう。
1. タックル(発生率No.1)
ラグビーの怪我の中で、圧倒的に多いのが「タックル」の場面です。統計データによっては、試合中の怪我の半数以上がタックル局面で起きていると言われています。これはタックルされる側(ボールキャリア)だけでなく、タックルする側(タックラー)も同様です。
特にタックラーが「逆ヘッド」と呼ばれる間違った頭の位置でタックルに入ると、相手の腰や膝に頭部を強打し、脳振盪や首の怪我につながる危険性が高まります。そのため、正しいタックルスキルの習得は、安全対策の最優先事項とされています。
2. ラックなどの密集戦
タックル後のボール争奪戦である「ラック」や「モール」といった密集プレーも、怪我が起こりやすい場面です。多くの選手が入り乱れるため、予期せぬ方向から乗られたり、足首を踏まれたりすることがあります。
また、密集の中で不自然な体勢のまま力を入れ続けることで、腰や首に過度な負担がかかることもあります。密集でのルール(ジャッカルの姿勢など)が厳しくなっている背景には、こうした危険な状況を減らすという目的も含まれています。
3. スクラム(特にフロントロー)
ラグビーの象徴でもある「スクラム」は、フォワードの選手同士が数百キロ以上の力で押し合うプレーです。特に最前列の3人(フロントロー)には、首や背骨に強烈な圧力がかかります。
スクラムが崩れてしまった時(コラプシング)に、首が曲がった状態で重圧がかかると、重篤な怪我につながる恐れがあります。そのため、スクラムを組むには専門的なトレーニングと首の筋力強化が不可欠であり、安全に組むためのルールも非常に細かく設定されています。
ポジションによって違う?FWとBKの怪我の傾向

ラグビーには15人(セブンズなら7人)それぞれのポジションがあり、役割が異なります。役割が違えば、身体にかかる負担や怪我の傾向も変わってきます。ここでは大きく「フォワード(FW)」と「バックス(BK)」に分けて解説します。
フォワード(FW):首や肩、顔面の怪我
スクラムやモールなど、身体を張ってボールを確保する役割のフォワードは、相手選手と密着して押し合うプレーが多いため、首や肩への負担が非常に大きくなります。慢性的な首の痛みや腰痛を抱える選手も少なくありません。
また、密集の底でプレーすることが多いため、顔面の擦り傷や打撲、耳の変形などもフォワードに多く見られる特徴です。まさに身体を盾にして戦うポジションゆえの傾向と言えます。
バックス(BK):肉離れや膝の靭帯損傷
広いフィールドを駆け回り、スピードで勝負するバックスは、筋肉系のトラブルが多くなります。トップスピードで走っている最中に急停止したり、全速力でスプリントしたりすることで、太ももの裏側(ハムストリングス)の肉離れを起こしやすい傾向があります。
また、高速で走っている状態でタックルを受けたり、激しいステップを切ったりするため、膝の靭帯(特に前十字靭帯)への負荷も大きくなります。コンタクトによる怪我ももちろんありますが、自らのスピードが原因となる怪我も多いのが特徴です。
ジュニア(子供)世代の傾向
成長期にある小中学生のラグビーでは、大人とは少し違った注意が必要です。骨が成長途中であるため、筋肉の付着部が引っ張られて痛みが出る「オスグッド病」や「シーバー病」などのスポーツ障害が起きやすくなります。
また、中学生・高校生になるとコンタクトの強度が急激に上がるため、鎖骨骨折や肩の脱臼が増える傾向にあります。体が大きくなる時期だからこそ、基礎体力の向上とスキルの習得のバランスが重要です。
重大な事故を防ぐために!今日からできる効果的な予防策

怪我のリスクをゼロにすることは難しいですが、適切な準備と対策を行うことで、その確率を大幅に下げ、重症化を防ぐことは可能です。ここでは具体的な予防策を4つの観点から紹介します。
1. 「首」を鍛えるネックトレーニング
ラグビーにおいて「首の強さ」は安全の要です。首の筋肉が太く強くなることで、タックルやスクラムの衝撃から頭部や頸椎を守ることができます。首が弱いと、衝撃を受けた際に頭が大きく振られてしまい、脳振盪のリスクも高まります。
専用の器具を使わなくても、自分の手で頭を押して抵抗をかけるアイソメトリックトレーニングや、ブリッジ運動(指導者の下で行うこと)など、地道な強化が自分の身を守ります。
2. 正しいタックルスキルの習得
最も怪我が多いタックルの場面で身を守る唯一の方法は、正しいスキルを身につけることです。「相手の真正面に頭を入れない」「しっかりと踏み込んでパック(相手を腕で束ねる)する」といった基本動作を徹底しましょう。
疲れてくるとフォームが崩れやすくなり、頭が下がって危険なタックルになりがちです。疲れた状態でも正しい姿勢を保てるよう、反復練習を行うことが重要です。近年では「タックル高(高さ)」を下げる指導も徹底されています。
3. 防具(マウスガード・ヘッドキャップ)の活用
用具による保護も欠かせません。マウスガード(マウスピース)は義務化されているカテゴリーがほとんどですが、これは歯を守るだけでなく、顎への衝撃を緩和して脳振盪のリスクを減らす効果も期待されています。
ヘッドキャップは、脳振盪そのものを完全に防ぐものではありませんが、頭同士がぶつかった際の裂傷(切り傷)や耳の怪我を防ぐのに非常に有効です。自分の身体に合ったサイズを正しく着用しましょう。
4. 柔軟性とリカバリー
身体が硬いと、衝撃を受けた際に力がうまく分散されず、肉離れや関節の怪我につながります。股関節周りや肩甲骨周りの柔軟性を高めるストレッチは、パフォーマンス向上だけでなく怪我予防にも直結します。
また、練習後のリカバリーも大切です。疲労が蓄積した状態でプレーを続けると、集中力が低下し、大きな怪我を招きやすくなります。十分な睡眠と栄養摂取も立派な怪我予防策の一つです。
もし怪我をしてしまったら?現場で役立つ応急処置の基本

万が一、グラウンドで怪我が発生してしまった場合、最初に行う処置がその後の回復を大きく左右します。専門のトレーナーがいない場合でも対応できるよう、基本的な知識を持っておきましょう。
基本の「RICE」処置
捻挫や打撲、肉離れなどの急な怪我には、以下の4つの手順からなる「RICE(ライス)処置」が基本となります。
Rest(安静):無理に動かさず、患部を休ませます。
Ice(冷却):氷のうなどで患部を冷やし、腫れや痛みを抑えます。
Compression(圧迫):弾性包帯などで適度に圧迫し、内出血を最小限にします。
Elevation(挙上):患部を心臓より高い位置に上げ、腫れを防ぎます。
最近ではこれに保護(Protection)を加えた「PRICE」や、適度な負荷(Optimal Loading)を加える「POLICE」という概念も広まっていますが、まずは「冷やして、圧迫して、高く上げる」と覚えておけば間違いありません。
脳振盪が疑われる場合
頭を打った後、「ふらつく」「吐き気がする」「記憶があいまい」などの症状がある場合は、直ちにプレーを中止し、医師の診察を受けてください。「少し休んだら治った」と自己判断してプレーに戻るのは大変危険です。
「疑わしきは出場させず(Recognise and Remove)」がラグビー界の鉄則です。脳振盪は一度起こすと、短期間で再発した際に重篤なダメージ(セカンドインパクト症候群)を残す可能性があります。必ず専門のプロトコルに従って復帰を目指しましょう。
救急車を呼ぶべきケース
明らかに骨が変形している(骨折や脱臼)、意識がない、首を激しく痛めて手足が動かない、といった場合は、むやみに動かさず、すぐに救急車を呼んでください。特に首の怪我が疑われる場合は、ヘルメットやヘッドキャップを無理に脱がそうとせず、そのままの状態で救急隊の到着を待つのが賢明です。
ラグビーで怪我が多い部位を理解して安全に楽しもう
ラグビーで怪我が多い部位やその対策について解説してきました。激しいスポーツである以上、怪我のリスクを完全にゼロにすることはできませんが、正しい知識と準備があれば、そのリスクは大幅に減らすことができます。
特に「頭部・肩・膝・足首」は要注意ポイントです。日頃から首を鍛えたり、タックルの基本スキルを磨いたりすることは、自分自身を守るだけでなく、対戦相手を守ることにもつながります。
「怪我は怖いが、ラグビーは楽しい」。そう思える環境を作るためには、選手自身はもちろん、指導者や保護者がこうした知識を共有しておくことが大切です。しっかりと体をケアし、万全の状態でラグビーという素晴らしいスポーツを楽しんでください。


