ラグビーの試合を見ていると、ゴールラインの前からキックをして試合が再開されるシーンを見かけることがあります。これは「ゴールラインドロップアウト」と呼ばれるルールです。2021年頃に導入された比較的新しいルールのため、「昔見ていたラグビーと違う」「どんな時に適用されるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
このルールは、試合の展開をよりスピーディーにし、攻撃側と守備側の駆け引きを面白くするために作られました。特にゴールライン付近の攻防で頻繁に登場するため、知っておくと試合観戦がぐっと楽しくなります。
この記事では、ゴールラインドロップアウトの基本的な意味から、適用される具体的な場面、似ている「22メートルドロップアウト」との違いまで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。専門用語も噛み砕いてお伝えしますので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
ゴールラインドロップアウトとは?基本を解説

まずは、ゴールラインドロップアウトがどのようなプレーなのか、基本的な部分から見ていきましょう。言葉の通り、ゴールライン上からドロップキックを行うプレーですが、なぜそのようなルールができたのか、その背景も知ることで理解が深まります。
どんなルール?試合再開の新しい方法
ゴールラインドロップアウトは、特定の状況下で試合が止まった際に、防御側のチームが自陣のゴールライン上からボールを蹴って試合を再開する方法です。
これまでは、ゴール前での攻防で攻撃が止まった場合、攻撃側のボールで「5メートルスクラム」が組まれることが一般的でした。しかし、この新ルールによって、防御側がボールを蹴り出す(ドロップアウトする)形で再開されるケースが増えました。
これにより、守備側はピンチを脱出するチャンスが得られ、攻撃側はせっかく攻め込んだのにボール所有権を失うというリスクが生まれました。つまり、ゴール前でのプレーにより高い緊張感が生まれるようになったのです。
いつから始まった?2021年のルール変更
このルールは、2020年から一部の大会で試験的に導入され、2021年8月よりワールドラグビー(World Rugby)が定める正式なルールとして全世界で適用されるようになりました。
以前のラグビーを知っている方からすると、「インゴールでボールが埋もれたらスクラムじゃないの?」と違和感を覚えるかもしれません。以前は「パイルアップ(ボールが選手の下敷きになり動かなくなること)」などの場合、攻撃側の5メートルスクラムで再開されていました。
しかし、スクラムは組むのに時間がかかり、試合のテンポが悪くなる要因の一つでもありました。ゴールラインドロップアウトの導入は、試合の停止時間を減らし、ボールが動いている時間を増やすことを大きな目的としています。
どこから蹴るの?位置と方法
ゴールラインドロップアウトを行う際、キッカーは自陣のゴールライン上の任意の地点からボールを蹴ります。必ずしもゴールポストの真ん中から蹴る必要はなく、戦術に応じて左右好きな位置を選ぶことができます。
蹴り方は「ドロップキック」に限定されています。ドロップキックとは、ボールを一度地面にワンバウンドさせてから蹴る方法です。手から離して直接蹴るパントキックは認められていません。
また、蹴られたボールは少なくとも5メートルライン(ゴールラインから5メートル前方にある点線)を越える必要があります。もし5メートルラインに届かなかった場合は、相手ボールのスクラムなどで再開することになります。
これが出たら適用!3つの主なケース

では、実際にどのような場面でゴールラインドロップアウトになるのでしょうか。主なケースは大きく分けて3つあります。これらは試合の勝敗を分ける重要な局面で起こることが多いので、しっかり押さえておきましょう。
パイルアップ(ヘルドアップ)になったとき
一つ目は、攻撃側の選手がボールを持ってインゴールに入ったものの、守備側の選手に邪魔をされてボールを地面につけられなかった場合です。これを「ヘルドアップ(Held up)」と呼びます。
以前のルールでは、この場合は攻撃側の5メートルスクラムで再開され、攻撃側には「もう一度トライを狙うチャンス」が与えられていました。そのため、とりあえずインゴールに突っ込んでみて、ダメならスクラムからやり直し、という戦術が可能でした。
しかし、現在はゴールラインドロップアウトとなり、ボールの所有権が守備側に移ります。これにより、守備側は「必死に守ってボールをグラウンディングさせなければ、ボールを取り返せる」という大きなメリットを得ることになりました。
攻撃側がインゴールでノックオンしたとき
二つ目は、攻撃側の選手がインゴール内でボールを前に落としてしまった(ノックオンした)場合です。
通常、フィールド内でノックオンをすると相手ボールのスクラムになります。しかし、相手陣のインゴール内でノックオンをした場合は、スクラムではなくゴールラインドロップアウトが適用されます。
これは攻撃側にとって非常に手痛いミスとなります。あと少しでトライという場面でのミスが、そのまま相手ボールでのキック再開になってしまうため、インゴール付近でのハンドリングスキル(ボール扱い)の正確性がより求められるようになりました。
攻撃側のキックを防御側がインゴールで押さえたとき
三つ目は、攻撃側が蹴ったボールがインゴールに入り、それを防御側の選手が自ら地面に押さえた(グラウンディングした)場合です。
以前は、このケースでは「22メートルドロップアウト」が適用されていました。22メートルライン(ゴールラインよりかなり前)から蹴ることができたため、守備側は一気に陣地を挽回することができました。
しかし、新ルールではゴールラインからのドロップアウトに変更されました。蹴る位置が下がったことで、守備側は自陣深くからの脱出が以前より難しくなっています。これは、攻撃側が戦術的なキックを使ってインゴールを攻めることを推奨するための変更とも言えます。
ミスが起きたらどうなる?(5メートル飛ばない場合など)
ゴールラインドロップアウトは、正しく行われないと反則になります。よくあるミスとその後の処理についても知っておきましょう。
まず、キックされたボールが5メートルラインを越えなかった場合です。この時、相手チーム(元攻撃側)は以下の選択肢からプレー再開方法を選べます。
1. ゴールラインドロップアウトのやり直し
2. ゴールラインから5メートル地点でのスクラム(自分たちがボールを入れる)
また、ボールが誰にも触れずに直接タッチラインの外に出た(ダイレクトタッチ)場合も反則です。この場合は、相手チームは以下の選択肢を持ちます。
1. ゴールラインドロップアウトのやり直し
2. ゴールラインから5メートル地点でのスクラム
3. ボールが出た地点(または5メートルライン上)でのラインアウト
このように、ドロップアウトを蹴る側(守備側)にもプレッシャーがかかるルールになっています。ミスをすると、相手に絶好の攻撃チャンスを与えてしまうからです。
似ているようで違う「22メートルドロップアウト」

ラグビーには昔から「22メートルドロップアウト」というルールがあります。ゴールラインドロップアウトと名前も動きも似ていますが、適用される状況や蹴る位置が異なります。ここで違いを整理しておきましょう。
キックする位置の違い
最もわかりやすい違いは、ボールを蹴る位置です。
ゴールラインドロップアウト:ゴールライン上(自陣の一番深いライン)から蹴ります。
22メートルドロップアウト:22メートルライン(ゴールラインから22m離れたライン)上、またはそれより後ろから蹴ります。
22メートルドロップアウトの方が、敵陣に近い位置から蹴ることができるため、陣地を回復するのが容易です。一方、ゴールラインドロップアウトは自陣深くからのスタートとなるため、相手に攻め込まれるリスクが高く残ります。
適用される場面の違い
どのような時にどちらが適用されるのか、混同しやすいポイントを整理しました。以下の表を参考にしてください。
| シチュエーション | 適用されるルール |
|---|---|
| 攻撃側がインゴールへ持ち込み、ヘルドアップになった | ゴールラインドロップアウト |
| 攻撃側がインゴールでノックオンした | ゴールラインドロップアウト |
| 攻撃側のキック(パント等)を防御側がインゴールで押さえた | ゴールラインドロップアウト |
| 攻撃側のペナルティゴールやドロップゴールが失敗し、デッドになった | 22メートルドロップアウト |
| 攻撃側が蹴ったボールが、インゴールを突き抜けてデッドになった | 選択肢による(スクラムまたは22mドロップアウト) |
特に注意が必要なのは、「ドロップゴールやペナルティゴールを狙ったキックが外れてデッドになった場合」です。この場合は、以前と変わらず22メートルドロップアウトになります。「攻撃意図のあるキック」と「得点を狙ったキック」で扱いが違うと覚えておくと良いでしょう。
守備側にとっての有利・不利の違い
守備側(ボールを蹴る側)から見ると、22メートルドロップアウトは「かなり有利」な再開方法です。大きく蹴り出して一息つくことができます。
一方、ゴールラインドロップアウトは「少し不利」あるいは「ピンチ継続」といった状況です。ゴールライン上から蹴るため、飛距離が出てもハーフウェイライン付近までしか戻せないことが多く、相手にカウンター攻撃を仕掛けられる可能性が高いからです。
ですが、5メートルスクラム(旧ルールでの再開方法)よりは有利です。スクラムで押し込まれてペナルティを取られるリスクがなくなるため、守備側にとっては「スクラムよりはマシだが、22mドロップアウトほど楽ではない」という絶妙なバランスになっています。
なぜ導入されたの?ルール変更の目的

ルールが変わるには必ず理由があります。ゴールラインドロップアウトの導入は、現代ラグビーをより魅力的にするために行われました。その主な目的を深掘りしてみましょう。
攻撃的なラグビーを増やすため
最大の目的は、攻撃側に「トライを取りきる技術」を求めることです。
旧ルールでは、攻撃側は「とりあえずインゴールへ突っ込んで、グラウンディングできなくても5メートルスクラムになればOK」という考え方ができました。これだと、力任せの単調な攻撃が増えてしまいます。
新ルールでは、グラウンディングできなければボールを失ってしまいます。そのため、攻撃側はより工夫してディフェンスを崩したり、確実にスペースを見つけてボールを運んだりする必要が出てきました。結果として、より技術的でスリリングな攻撃シーンが増えることが期待されています。
試合のスピードアップと停滞防止
ラグビー観戦において、スクラムを組む時間は「待ち時間」になりがちです。特にゴール前のスクラムは何度も組み直しが発生しやすく、試合が数分間止まってしまうことも珍しくありませんでした。
ゴールラインドロップアウトなら、ドロップキック一発ですぐにプレーが再開されます。ボールがインプレー(試合中)の状態が長くなることで、観客にとっても退屈な時間が減り、スピーディーな試合展開を楽しむことができます。
実際に、このルール導入以降、ボールが動いている時間(インプレータイム)が増加したというデータもあります。
インゴールでのディフェンスへの「ご褒美」
これまでは、防御側が必死にタックルしてインゴールでボールを浮かせても(ヘルドアップしても)、直後に5メートルスクラムという大ピンチが待っていました。「あんなに頑張って守ったのに、またピンチか…」という状況だったのです。
ゴールラインドロップアウトの導入により、ヘルドアップに持ち込めばボールを取り返すことができます。これは素晴らしいディフェンスに対する正当な「報酬(ご褒美)」と言えます。
これにより、守備側の選手たちはインゴールに入られても諦めず、ボールの下に手を差し込んでグラウンディングを防ごうとするプレーがより積極的に見られるようになりました。
攻撃側にとっては「リスク」が増え、守備側にとっては「チャンス」が増えた変更と言えます。このバランスの変化が、試合をより熱くしているのです。
観戦がもっと面白くなる!注目のポイント

ここまでの知識を踏まえて、実際に試合を見る際にどこに注目すればよいかをご紹介します。ゴールラインドロップアウト周辺の攻防は、試合の流れを大きく左右する重要なポイントです。
ゴール前5メートルラインの攻防
ゴールラインドロップアウトが行われる際、相手チーム(攻撃側だったチーム)の選手たちは、少なくともゴールラインから5メートル離れなければなりません。つまり、5メートルライン上に壁のように並んで待ち構えることになります。
蹴る側は、この壁を越えて遠くへ飛ばしたいと考えます。一方で、待ち構える側は、飛んできたボールをキャッチしてすぐにカウンターアタック(逆襲)を仕掛けようと狙っています。
「どこに蹴るのか」「誰がキャッチするのか」「キャッチした後すぐに攻めるのか」という一瞬の判断が見どころです。時には、蹴る側が意表を突いて短いキックを使い、自らボールを再獲得しにいく奇策に出ることもあります。
ドロップアウト後のカウンター攻撃
ゴールラインドロップアウトで蹴られたボールは、だいたいハーフウェイラインの手前あたりに落ちることが多いです。ここからが攻撃側(キャッチした側)の腕の見せ所です。
守備側(蹴った側)の陣形が整う前に、素早くボールを展開して攻め込む「カウンターアタック」は非常にスリリングです。特に足の速いウイングやフルバックの選手がボールを受けた時は、ビッグゲイン(大きな前進)が生まれるチャンスです。
単にボールを蹴り返すのか、ランで仕掛けるのか。各チームの戦術や、その時の点差、残り時間によって選択が変わるため、選手たちの意思決定に注目してみてください。
審判のシグナルに注目しよう
試合中に「あれ?今のどっちだろう?」と思った時は、レフリー(審判)のジェスチャーに注目しましょう。
レフリーが腕を高く上げ、手のひらを開いて前後に振るような動作をしながら笛を吹いた場合、それは「ヘルドアップ」や「ゴールラインドロップアウト」を示していることが多いです。
また、スタジアムの大型ビジョンやテレビ中継でも、ルール適用時にはテロップが出ることがあります。わからない時は解説者の言葉に耳を傾けるのも良いでしょう。「これは新ルールの適用ですね」といった解説が入ることがよくあります。
まとめ
今回は、ラグビーのルールの中でも比較的新しい「ゴールラインドロップアウト」について解説しました。最後に重要なポイントを振り返ってみましょう。
このルールは、主に以下の3つの場面で適用されます。
1. ヘルドアップ(インゴールでグラウンディングできなかった時)
2. 攻撃側のインゴールノックオン
3. 攻撃側のキックを防御側がインゴールで押さえた時
従来の「5メートルスクラム」や「22メートルドロップアウト」に代わるこのルールは、試合のスピードアップを促し、インゴールでの必死のディフェンスに報いるために導入されました。攻撃側にとっては「確実にトライを取りきる技術」が、防御側にとっては「粘り強い守備」がより重要になっています。
次にラグビーの試合を観戦する際は、ゴール前での攻防にぜひ注目してみてください。選手たちがインゴールで団子状態になった後、レフリーがどちらの手を挙げるのか。ゴールラインドロップアウトになった時、キッカーはどこへ蹴り、相手はどう反撃するのか。このルールの意味を知っているだけで、その瞬間のドキドキ感が何倍にもなるはずです。
メモ:
ルールは数年ごとに見直されることがあります。常に最新の情報をチェックして、ラグビーの変化を楽しんでいきましょう!


