ラグビーの試合を観戦していると、選手たちと一緒にフィールドを走り回り、頻繁に声をかけている人の存在に気づくことでしょう。それが「ラグビーの審判」です。ラグビーにおいて審判は、単にルール違反を取り締まるだけでなく、試合の流れを作り、選手の安全を守るための非常に重要な役割を担っています。「レフリー」と呼ばれる彼らの判断一つで、試合の展開が大きく変わることも珍しくありません。
また、ラグビーの審判はマイクを装着しており、その声が放送や会場で流れることがあるのも大きな特徴です。「なぜ今のプレーが反則なのか」「次はどうすればいいのか」を選手とコミュニケーションを取りながら進める姿は、他のスポーツではあまり見られない光景かもしれません。この記事では、ラグビーの審判の種類や役割、よく見るジェスチャーの意味、そして資格の取り方までをわかりやすく解説します。
ラグビーの審判とは?基本の構成と役割を整理

ラグビーの試合は、フィールド上で判定を下す「レフリー(主審)」を中心に、複数の審判員がチームとなって運営しています。それぞれの役割を理解することで、試合中に何が起きているのかがより明確にわかるようになります。
試合を司るリーダー「レフリー(主審)」
ラグビーの試合において、最も権限を持ち、最終的な判断を下すのが「レフリー」です。サッカーなどでは「主審」と呼ばれることが多いですが、ラグビーでは一般的にレフリーと呼ばれます。彼らは試合中、選手と共にフィールド内を走り回り、プレーの直近でジャッジを行います。その走行距離は1試合で数キロメートルにも及び、激しい攻防に遅れずついていくための高い体力が求められます。
レフリーの最大の役割は、競技規則(ルール)に基づいて試合を公平かつ安全に進めることです。得点の認定、反則の判定、試合時間の管理など、その責任は重大です。しかし、単に笛を吹くだけではありません。ラグビーのレフリーは「ゲームコンダクター(指揮者)」とも呼ばれ、試合のテンポを落とさないように工夫したり、選手と対話して反則を未然に防いだりと、試合の質を高めるためのコントロールも行っています。
主審をサポートする「アシスタントレフリー」
フィールドの両サイド、タッチライン沿いに位置しているのが「アシスタントレフリー」です。以前は「タッチジャッジ」と呼ばれていましたが、役割が拡大したことにより現在の名称に変更されました。1試合につき2名が配置され、それぞれのサイドを担当します。
主な役割は、ボールや選手がタッチラインの外に出たかどうかの判定や、ゴールキックが成功したかどうかの確認です。また、レフリーの死角で起きた反則や、危険なプレー(ファウルプレー)を発見した際には、旗を使ってレフリーに知らせることも重要な任務です。レフリーと無線インカムで常に繋がっており、細かい情報をリアルタイムで共有して正確なジャッジをサポートしています。
ビデオ判定で正確さを期す「TMO」
近年、国際試合やトップリーグなどの主要な試合で導入されているのが「TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)」です。これは別室でモニターを監視しているビデオ判定担当の審判員のことです。フィールド上のレフリーだけでは判断が難しい際どいプレーがあった場合に、映像を確認して正確な判定を導き出します。
例えば、トライの瞬間にボールが地面についていたかどうかや、危険なタックルがあったかどうかの確認などでTMOが活用されます。レフリーが「TMOをお願いします」と要請することもあれば、TMO側から「確認すべきプレーがある」とレフリーに伝えることもあります。会場の大型ビジョンにその映像が映し出されることもあり、観客も固唾を飲んで判定を見守るシーンはお馴染みとなりました。
その他に試合を支える「第4の審判」などのスタッフ
表舞台に立つ3人の審判員やTMO以外にも、試合運営を支える重要なスタッフがいます。それが「第4の審判」や「第5の審判」と呼ばれる担当者です。彼らは主にピッチの外で、選手の交代や一時的な退出(シンビンや出血交代など)の管理を行います。
ラグビーでは選手の交代回数やタイミングに細かいルールがあるため、これを正確に管理することは試合成立のために不可欠です。また、タイムキーパーと連携して試合時間を管理したり、機材のトラブルに対応したりと、スムーズな試合進行のための裏方として奔走しています。彼らの存在があって初めて、フィールド内のレフリーはプレーの判定に集中できるのです。
試合状況が一目でわかる!主なジェスチャーとシグナル

レフリーは笛の音だけでなく、手や腕を使った「ジェスチャー(シグナル)」で判定の内容を伝えます。このシグナルの意味を知っていると、実況解説がなくても「あ、今のはノックオンだな」「これは相手の反則だな」と理解できるようになります。
得点が入った時の「トライ」や「ゴール」の合図
ラグビー観戦で最も盛り上がる瞬間といえば、やはり得点シーンでしょう。選手がボールをインゴールに持ち込み、地面につけたと判断された場合、レフリーは片腕を真上に高く突き上げます。これが「トライ」のシグナルです。同時に笛が長く吹かれ、試合が一時停止します。
トライ後のコンバージョンキックや、反則で得たペナルティゴールが決まった時は、ゴールポストの下にいるアシスタントレフリーが旗を上げます。この時、レフリー自身は特別なポーズをとらないこともありますが、キック成功を確認した後に次のプレー(キックオフなど)を促すジェスチャーを行います。トライのシグナルは非常にわかりやすいため、初心者の方でもすぐに見分けることができるはずです。
反則があった時の「ペナルティ」と「フリーキック」
重い反則があった場合に与えられるのが「ペナルティキック」です。レフリーは笛を吹いた後、反則を犯さなかったチーム(ボールをもらう側)の陣地へ向かって、腕を斜め上に45度くらいの角度で上げます。このポーズが出たら、攻守が切り替わるか、キックで陣地を大きく挽回するチャンスです。
一方、比較的軽い反則の場合に与えられるのが「フリーキック」です。この時のシグナルは、腕を直角に曲げて(肘を90度にして)上げます。ペナルティと似ていますが、肘が曲がっているかどうかが違いです。フリーキックではゴールを狙うことができないため、スクラムを選択したり、チョン蹴りして速攻を仕掛けたりすることが多くなります。
よくある反則「ノックオン」や「スローフォワード」
試合中に最も頻繁に発生するミスの一つが、ボールを前に落としてしまう「ノックオン」です。この時、レフリーは片手を頭の上あたりで前後に振るような動作をします。ボールが前に落ちたことを表現しているわかりやすいジェスチャーです。
また、ボールを自分より前に投げてしまう「スローフォワード」という反則もあります。この場合は、手を胸の前で、パスを投げるように前方に動かす動作を行います。どちらの反則も、その地点でのスクラムで試合が再開されます。これらのシグナルは非常に直感的で、見ていれば「あ、ミスをしたんだな」とすぐに理解できるでしょう。
試合を止めずにチャンスを広げる「アドバンテージ」
ラグビーには「アドバンテージ」という独自のルールがあります。これは、反則があったとしても、反則をされた側のチームがボールを持って攻撃を続けており、そのままプレーさせた方が有利になるとレフリーが判断した場合、すぐには笛を吹かずに試合を続行させることです。
この時、レフリーは片腕を水平に、アドバンテージを得ているチームの方向へ長く伸ばします。そして「アドバンテージ!」と声をかけます。もしその後すぐにボールを奪われたりミスをしたりして有利な状況がなくなれば、レフリーは笛を吹いて元の反則地点に戻ります。逆に、そのままトライしたり大きく前進できれば「アドバンテージ・オーバー」と宣言し、反則は解消されます。このシグナルが出ている間は「チャンスが継続中」なので、応援にも力が入る瞬間です。
ラグビー独自の文化!選手と審判のコミュニケーション

他のスポーツと比べて、ラグビーの審判は選手とよく会話をします。これは単なる雑談ではなく、円滑な試合運営のための重要な要素です。威圧的にルールを押し付けるのではなく、選手と協力して良いゲームを作ろうとする姿勢がそこにはあります。
マイクで聞こえる審判の声と「トーク」の技術
テレビ中継を見ていると、レフリーの声がクリアに聞こえてくることがあります。これはレフリーが装着しているピンマイクの音声を拾っているからです。よく耳を澄ませると、「ハンズオフ(手を離して)」「ロールアウェイ(退いて)」「ユーズイット(ボールを使って)」といった指示を頻繁に出しているのがわかります。
これらは、反則を取る前に選手に警告を与え、反則を回避させるための「予防的な声かけ」です。例えば、タックル後の密集で選手が邪魔な位置にいるとき、いきなり笛を吹くのではなく「退いて!」と声をかけることで、選手がそれに反応して退けばプレーは継続されます。このように、レフリーはコミュニケーションによって反則の数を減らし、試合の流れが止まるのを防いでいるのです。
選手は審判を「Sir(サー)」と呼んでリスペクト
ラグビーには「レフリーは絶対である」という考え方が根付いています。どれだけ納得のいかない判定であっても、選手がレフリーに対して暴言を吐いたり、執拗に抗議したりすることは許されません。選手たちはレフリーに対し、敬意を込めて「Sir(サー)」と呼びます(女性レフリーの場合は「Ma’am(マム)」)。
このリスペクトの精神は、少年ラグビーからトップレベルまで一貫しています。もしレフリーの判定に不服そうな態度をあからさまに見せたり、言葉で反抗したりすれば、さらに重い反則(ペナルティ)を取られることもありますし、最悪の場合は退場処分になることもあります。この厳格な規律が、激しいコンタクトスポーツであるラグビーの秩序を守っているとも言えます。
キャプテンだけが許される審判との対話
原則として、判定についてレフリーに質問や確認ができるのは、各チームの「キャプテン」だけです。他の選手が勝手にレフリーに詰め寄ると注意を受けます。キャプテンはチームを代表して、「今の反則は具体的に何でしたか?」「スクラムの判定基準を確認させてください」といった対話を行います。
レフリーもキャプテンに対しては丁寧に説明を行います。この対話を通じて、キャプテンはレフリーの判定基準(クセや傾向)を理解し、それをチームメイトに伝達して修正を図ります。したがって、ラグビーのキャプテンには、プレーの実力だけでなく、レフリーと冷静にコミュニケーションをとる高い知性と人間性も求められるのです。
審判の個性やゲームコントロールに注目して観戦しよう

「審判は黒子(くろこ)であるべき」と言われることもありますが、ラグビーにおいてはレフリーの個性が試合展開に色濃く反映されます。同じルールブックに基づいていても、レフリーによって「厳しく取る反則」や「流すプレー」の基準が微妙に異なるからです。
試合のテンポを作る「ブレイクダウン」の判定基準
ラグビーで最も反則が起こりやすいのが、タックル後のボールの奪い合いである「ブレイクダウン」の局面です。ここの判定基準はレフリーによって個性が出やすいポイントです。あるレフリーは、守備側の選手がボールに絡むプレー(ジャッカル)を積極的に評価し、攻撃側に「ボールを離さない反則(ノットリリースザボール)」を早めに取ることがあります。
また別のレフリーは、攻撃側の継続を重視し、多少のことは流して試合を止めない傾向があるかもしれません。観戦する際は、「今日のレフリーはブレイクダウンでどちらに厳しいかな?」と注目してみると、どちらのチームが有利になりそうか予想できるようになり、玄人好みの楽しみ方ができます。
反則を未然に防ぐ「予防的レフリング」とは
優秀なレフリーほど、笛を吹く回数が少ないと言われます。それは、前述したような「声かけ」によって反則を未然に防いでいるからです。これを「予防的レフリング」と呼びます。例えば、オフサイドラインギリギリに立っている選手に対して、目線や指差し、あるいは具体的な声で「下がれ」と指示を出します。
もし選手がその指示に気づいて下がれば、オフサイドの反則にはならず、ゲームはスムーズに続きます。逆に、コミュニケーションが不足していると反則が多発し、試合がブツブツと途切れてしまいます。レフリーがどのように選手をコントロールし、試合のリズムを作っているかに注目すると、彼らの技術の高さに驚かされるはずです。
レフリーごとの特徴を知るともっと面白くなる
トップリーグや国際試合を担当するような有名レフリーには、それぞれのスタイルがあります。「スクラムの判定に厳しいレフリー」「コミュニケーションが丁寧でわかりやすいレフリー」「走るスピードが速く、常にボールの近くにいるレフリー」など、選手と同様に彼らもアスリートであり、プロフェッショナルです。
試合前のメンバー発表で、選手だけでなく担当レフリーの名前もチェックしてみてください。「このレフリーなら、今日はボールがよく動くスピーディーな試合になりそうだ」といった予想ができるようになれば、あなたはもう立派なラグビー通です。
私もなれる?ラグビー審判の資格と取得方法

ラグビーの審判は、選手経験がなくても目指すことができます。また、現役選手がルールの理解を深めるために資格を取ることも推奨されています。日本では日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が認定する公認レフリー資格制度があります。
誰でも挑戦できる「スタートレフリー」資格
ラグビーの審判に興味を持ったら、まずは「スタートレフリー」という資格から始めるのが一般的です。これは審判活動の入り口となる資格で、12歳以上であれば誰でも取得可能です(ただし小学生を除く)。
以前は会場での講習が必要でしたが、現在はオンライン講座(eラーニング)での受講が可能になっています。ルールの基礎やレフリーの心構えを動画などで学び、確認テストに合格すれば認定されます。この資格を持つと、コンタクトのないタグラグビーのレフリーや、公式戦のアシスタントレフリー(タッチジャッジ)などを務めることができるようになります。
スタートレフリー資格のポイント
・受講資格:12歳以上
・受講方法:インターネットでのeラーニング
・できること:タグラグビーのレフリー、練習試合のレフリーなど
・メリット:ルールを体系的に学べるため、観戦力もアップする
子供たちの試合を支える「ミニラグビーレフリー」
小学生以下の子供たちがプレーする「ミニラグビー」に特化した、「ミニラグビーレフリー(MRR)」という資格もあります。子供たちの試合では、安全性が何よりも優先されますし、大人とはルールが一部異なります(スクラムの押し合いがない、など)。
この資格は、子供たちの指導者や保護者が取得することが多いです。未来の日本代表を育てる子供たちの安全を守り、ラグビーの楽しさを教えるという意味で、非常にやりがいのある役割と言えるでしょう。
本格的に目指すなら「C級・B級・A級」へステップアップ
より高いレベルの試合で笛を吹きたい場合は、都道府県協会が認定する「C級レフリー」へ進みます。C級を取得すると、中学生や高校生の地方大会などでレフリーを務めることが可能になります。取得には、講習会への参加と、実際に笛を吹く実技試験の合格が必要です。
さらに経験を積み、実績が認められると、地域協会(関東・関西・九州など)が認定する「B級」、そして日本協会が認定する「A級」へとステップアップしていきます。A級レフリーになれば、全国大会やリーグワンといったトップレベルの試合を担当する道が開かれます。トップレフリーへの道は険しいですが、審判としてワールドカップのピッチに立つことも夢ではありません。
資格取得の流れと講習会の内容
C級以上の資格を取得するための講習会では、座学でのルール確認はもちろん、フィットネステスト(持久力測定)や、実技指導が行われます。実際のプレー場面を想定して、どの位置に立てば見やすいか、どのようなシグナルを出せば伝わりやすいかなどを、インストラクターから直接指導してもらえます。
「審判をやるつもりはないけど、もっと詳しくなりたい」という理由で、講習会に参加するラグビーファンもいます(見学のみの枠がある場合もあります)。各地のラグビー協会が情報を発信していますので、興味がある方はチェックしてみると良いでしょう。
まとめ:ラグビーの審判を知れば試合がもっと面白くなる
ラグビーの審判について、その役割からジェスチャー、資格制度まで幅広く解説してきました。ここで今回のポイントを振り返ってみましょう。
・ラグビーの審判は「レフリー(主審)」「アシスタントレフリー」「TMO」のチームで構成される。
・ジェスチャーを知っていると、「トライ」「ノックオン」「アドバンテージ」などの状況がすぐにわかる。
・審判はマイクを使って選手と「トーク」し、反則を未然に防ぐ重要な役割を果たしている。
・選手からの「Sir」という呼びかけに象徴されるように、審判へのリスペクトが徹底されている。
・資格は「スタートレフリー」から気軽に挑戦でき、ルールの理解を深めるのにも役立つ。
ラグビーにおいて審判は、単なる監視役ではなく、選手と共に素晴らしい試合を作り上げる「仲間」の一人です。次に試合を観戦する時は、ボールの行方だけでなく、レフリーの動きや声、そして選手とのコミュニケーションにも耳を傾けてみてください。きっとこれまで以上に、ラグビーの奥深さと面白さを感じることができるはずです。


