「タッチラグビー」というスポーツをご存知でしょうか。ワールドカップで盛り上がりを見せるラグビーですが、「やってみたいけれど、タックルなどの激しい接触が怖い」と感じる方も多いかもしれません。そんな方にこそおすすめしたいのが、このタッチラグビーです。
タッチラグビーは、ラグビーのパス回しやランニングの爽快感はそのままに、身体的な接触を極力排除した安全なスポーツです。子供から大人まで、そして性別を問わず同じフィールドで楽しめることから、生涯スポーツとしても注目を集めています。
この記事では、タッチラグビーの基本的なルールから、通常のラグビーとの違い、各ポジションの役割、そして始めるために必要な道具まで、初心者の方にも分かりやすく丁寧に解説します。これから新しい趣味を見つけたい方や、親子で体を動かしたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1. タッチラグビーとは?基本概要と発祥

まずは、タッチラグビーがどのようなスポーツなのか、その成り立ちや特徴について詳しく見ていきましょう。名前の通りラグビーに似ていますが、独自の進化を遂げた全く新しい競技としての側面も持っています。
タックルの代わりに「タッチ」でプレーする安全なスポーツ
タッチラグビー最大の特徴は、相手を止める方法にあります。通常のラグビーでは、ボールを持った選手を地面に倒す「タックル」が行われますが、タッチラグビーではその名の通り「タッチ」をするだけで相手の攻撃を止めることができます。
この「タッチ」は、相手の体のどこかに触れるだけで成立します。背中や腕はもちろん、ジャージやパンツに触れるだけでも有効です。激しい衝突がないため、打撲や骨折といった大きな怪我のリスクが非常に低く、安全性が高いのが魅力です。
また、タッチをする際は「必要最小限の力」で行うことがルールで定められています。相手を突き飛ばしたり、強く叩いたりする行為は反則となるため、力の弱い女性や子供でも安心してプレーに参加できる環境が整っています。この「優しさ」が、タッチラグビーの根底にある精神の一つと言えるでしょう。
1960年代オーストラリア発祥の歴史と背景
タッチラグビーのルーツは、ラグビー強豪国であるオーストラリアにあります。1960年代、ラグビーリーグ(13人制ラグビー)の選手たちが、シーズンオフや試合前のウォーミングアップとして、タックルをしない形式でボールを回していたことが始まりとされています。
当初はあくまでトレーニングの一環でしたが、怪我のリスクが少なく、それでいてスピード感あふれるゲーム性が評判を呼び、徐々に一つの独立した競技として確立されていきました。その後、ルールが整備され、競技人口は急速に拡大していきます。
日本に紹介されたのは1980年代後半のことです。現在では世界中でワールドカップが開催されるほどのメジャースポーツに成長しており、日本代表チームも世界大会で好成績を収めるなど、国内での認知度も年々高まっています。
男女混合や幅広い年齢層で楽しめる「生涯スポーツ」
タッチラグビーは、性別や年齢の垣根を超えて楽しめる「ユニバーサルスポーツ」としての側面も持っています。公式の大会にも、男子、女子といったカテゴリーに加え、男女が混ざってチームを組む「ミックス(男女混合)」というカテゴリーが存在します。
ミックスの試合では、ピッチ上に男性と女性がそれぞれ一定人数出場します。体力差があっても、パスワークや戦術、チームワークで十分にカバーできるため、カップルや夫婦、職場の仲間同士でチームを結成するケースも珍しくありません。
また、小学生から60代以上のシニアまで、幅広い年代のプレーヤーが活躍しています。親子で同じチームでプレーできるのもタッチラグビーならではの光景です。激しい接触がない分、長く続けられる「生涯スポーツ」として、健康維持やコミュニティ作りに役立っています。
2. ここが違う!ラグビーとタッチラグビーの比較

「ラグビーの親戚」とも言えるタッチラグビーですが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、通常のラグビー(15人制や7人制)と比較しながら、その違いを明確にしていきます。
身体接触(コンタクト)の有無と安全性について
最も大きな違いは、先ほども触れた通り「コンタクト(身体接触)」の有無です。ラグビーではタックル、スクラム、モール、ラックといった、体をぶつけ合うプレーが頻繁に発生します。これらはラグビーの醍醐味である一方、初心者にとっては恐怖心や怪我の原因となる要素でもあります。
一方、タッチラグビーではこれらが一切禁止されています。スクラムを組んで押し合うこともなければ、密集戦でボールを奪い合うこともありません。ディフェンスは相手にタッチするだけ、オフェンスはタッチされたらボールを置いて再開する、というクリーンな展開が続きます。
このように、フィジカルの強さよりも、俊敏性やハンドリングスキル、そして状況判断能力が重視されるため、小柄な選手でも活躍の場が広いのが特徴です。
チーム人数とコートの広さの違い
プレー環境にも違いがあります。一般的な15人制ラグビーは広大なフィールドと1チーム15人の選手が必要ですが、タッチラグビーはよりコンパクトに行われます。
タッチラグビーの公式ルールでは、フィールド上のプレー人数は1チーム6人です。交代要員を含めて最大14人まで登録でき、試合中はいつでも何度でも自由に交代が可能です。バスケットボールやアイスホッケーのように、疲れたらすぐにベンチに戻り、回復したらまた出るというスタイルが一般的です。
コートの広さは、縦70メートル×横50メートルが標準とされており、これは通常のラグビーコートの約半分程度の大きさです。コンパクトな分、攻守の切り替えが非常に速く、スピーディーな展開が魅力です。少人数で集まりやすいため、練習や試合を開催するハードルが低いのも普及している理由の一つでしょう。
キックやスクラムがないシンプルなゲーム性
ラグビーといえば、H型のゴールポストに向かってボールを蹴るシーンを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、タッチラグビーには基本的に「キック」がありません(試合開始などの特定の再開時を除く)。
サッカーのようにボールを蹴ってパスをしたり、陣地を挽回したりすることはできず、ボールはすべて手で持って運び、パスでつなぐ必要があります。これにより、ボールコントロールの技術がより純粋に問われることになります。
また、反則があった際に行われる「スクラム」もありません。反則があった場合は、ボールを地面に置いて軽く蹴る「タップ」という動作ですぐに再開されます。複雑なセットプレーがないため、ルールを覚える負担が少なく、初心者でもすぐにゲームの流れに入り込むことができます。
3. 初心者でも分かる!タッチラグビーの基本ルール

ここでは、実際にプレーする上で知っておくべき基本的なルールを解説します。細かい規則はありますが、まずは「攻め方」と「守り方」の大枠を理解すれば、すぐにゲームを楽しむことができます。
試合の流れと得点方法(トライは1点)
試合は、フィールド中央からの「タップ(ボールを地面に置き、足で軽く叩いてから手で拾う動作)」で始まります。攻撃側はボールを持って走り、味方にパスを回しながら相手陣地の奥にある「インゴールエリア」を目指します。
得点方法は「トライ」のみです。インゴールエリア内にボールを運んで、地面にしっかりとボールをつけることでトライとなります。ラグビーのようにキックによる追加点(コンバージョンゴール)はなく、トライ1回につきシンプルに1点が入ります。
試合時間は大会によって異なりますが、国際ルールでは20分ハーフの計40分で行われます。ハーフタイムを挟んで陣地を交代し、最終的により多くの得点を挙げたチームの勝利となります。
「6回タッチ」で攻守交代の仕組み
タッチラグビーで最も重要なルールが、この「6回タッチ」です。攻撃側のチームは、攻撃権を持っている間に最大6回まで相手からタッチを受けることができます。
ボールを持っている選手が相手にタッチされると、その地点で一度プレーが止まり、再開動作を行います。これを繰り返し、6回目のタッチをされた時点で攻撃権が終了し、ボールを相手チームに渡さなければなりません。これを「ターンオーバー」と呼びます。
つまり、攻撃側は「6回タッチされる前にトライを取る」ことが目標となり、守備側は「トライされる前に6回タッチする」ことが目標となります。
この回数制限があることで、攻撃側は漫然と攻めるのではなく、いかに効率よく前に進むかという戦略が必要になります。守備側も、全員で協力して回数を稼ぐ組織的なディフェンスが求められます。
試合再開の「ロールボール」と「タップ」
タッチラグビー独特のプレー再開方法に「ロールボール」があります。これは、タッチされた選手が行う動作です。
タッチされた選手は、タッチされた地点(マーク)に立ち、ボールを地面に置きます。そして、そのボールをまたぐようにして後ろへ転がします。これを味方の選手(ハーフと呼びます)が拾って攻撃を再開します。この一連の流れをスムーズに行うことが、テンポの良い攻撃につながります。
一方、「タップ」はペナルティ(反則)があった時や、攻守交代時、試合開始時に行われます。ボールを地面に置き、足の裏などで軽くボールを叩き、自分で拾い上げます。タップの場合は、パスをせずにそのまま自分で走って攻撃を開始することができます。
メモ: ロールボールの際は、ボールをスムーズにまたぐことが大切です。ボールが転がらなかったり、1メートル以上転がりすぎたりすると反則になることがあります。
覚えておきたい反則(フォワードパスなど)
タッチラグビーにもいくつかの反則があります。初心者がまず覚えておくべき代表的なものを紹介します。
一つ目は「フォワードパス」です。これはラグビーと同じで、自分より前にいる味方にパスを投げてはいけません。パスは必ず真横か、後ろにいる味方に対して行います。
二つ目は「タッチアンドパス」です。タッチされた後にパスを投げてはいけません。タッチされたら、即座にその場でロールボールを行う必要があります。遅れてパスをしてしまうと反則となり、相手ボールになります。
三つ目は「オフサイド」です。守備側の選手は、タッチが成立した地点から、仮想のライン(オフサイドライン)より5メートル(大会規定によっては7メートルなどの場合もあり)後ろに下がらなければなりません。下がりきらずにプレーに参加するとオフサイドとなり、相手に有利な形で再開されます。
ボールを拾う「ハーフ」の特別なルール
ロールボールされたボールを最初に拾う選手を「ハーフ(またはダミーハーフ)」と呼びます。このハーフには、他の選手とは違う特別な制約があります。
ハーフはボールを持って走ることができますが、得点(トライ)することができません。もしハーフがボールを持ったままインゴールに入ってトライをしようとすると、その時点で相手ボールになります。
また、ハーフがボールを持っている時に相手にタッチされると、攻撃回数が残っていたとしても、即座に攻守交代(ターンオーバー)となります。そのため、ハーフは捕まる前に必ず味方にパスを出す必要があります。この「ハーフは捕まってはいけない」というルールが、ゲームにスリルとスピード感を与えています。
4. チームを構成する3つのポジションと役割

タッチラグビーは6人でプレーしますが、フィールド上の位置によって大きく3つのポジションに分けられます。それぞれの役割を理解すると、自分に合ったポジションが見つかり、プレーがより楽しくなります。
司令塔となる「ミドル」
フィールドの中央に位置する2人の選手を「ミドル」と呼びます。チームの司令塔であり、攻撃の組み立てを行う重要なポジションです。
ミドルは常にボールに絡み、左右にパスを散らしたり、自ら突破を仕掛けたりしてチャンスを作ります。運動量が最も多く、広い視野と的確な判断力が求められます。バスケットボールで言うところのポイントガード、サッカーで言うところのボランチのような役割を果たします。
守備の際も、フィールドの中央を守るため、相手の攻撃を一番最初に食い止める責任があります。体力に自信があり、ゲームメイクを楽しみたい方におすすめのポジションです。
つなぎ役とチャンスメイクの「リンク」
ミドルの両隣、内側から2番目に位置する選手を「リンク」と呼びます。ミドルとウィングをつなぐパイプ役であり、攻撃のバリエーションを広げるキーマンです。
リンクは、ミドルが作ったチャンスを受けてさらに外へ展開したり、ミドルと連携して相手の守備を崩すサインプレーに参加したりします。俊敏な動きで相手ディフェンスの隙を突く動きが求められます。
ディフェンスでは、最も抜かれやすいスペースをカバーする必要があるため、横の動きの速さと、相手の動きを読む洞察力が必要です。攻守のバランス感覚に優れた選手が輝くポジションです。
トライを決めるフィニッシャー「ウィング」
フィールドの一番外側、タッチライン際に位置する選手を「ウィング」と呼びます。チームの得点源であり、フィニッシャーとしての役割を担います。
ウィングの見せ場は、なんと言ってもトライを取りきる瞬間です。味方がつないできたボールを受け取り、快足を飛ばしてインゴールへ飛び込みます。スピードに自信がある選手や、決定力のある選手が配置されることが多いです。
また、守備においては一番外側からフィールド全体を見渡せるため、内側の味方に声をかけてディフェンスの指示を出す「声の司令塔」としての役割も期待されます。初心者の方でも、まずは外側でプレーの流れを掴みやすいウィングから始めることが多いです。
5. タッチラグビーの魅力とメリット

ルールやポジションを理解したところで、改めてタッチラグビーという競技が持つ独自の魅力や、プレーすることで得られるメリットについて深掘りしてみましょう。
初心者でもすぐに試合に参加できる手軽さ
多くの球技は、試合を楽しむレベルになるまでにある程度の練習期間が必要です。しかし、タッチラグビーは「走って、ボールを持って、タッチする」というシンプルな動作が基本であるため、ルールさえ覚えればその日のうちに試合形式のゲームに参加することが可能です。
高度なタックルの技術や、複雑な戦術理解がなくても、ボールを持って走る楽しさをすぐに味わえます。実際、体験会に参加したその日に「トライを決めた!」という喜びの声を聞くことは珍しくありません。この敷居の低さは、新しいことを始めたい大人にとって大きなメリットです。
コミュニケーション能力と協調性が育つ
タッチラグビーは、一人では絶対に勝てないスポーツです。ボールを持って走れる距離には限界があり、タッチされれば必ず味方にボールを託さなければなりません。
「右にパスするよ!」「僕がフォローに行くよ!」といった声の掛け合いが、プレー中は絶えず行われます。年齢や性別が異なるメンバー同士で声を掛け合い、一つのボールをつなぐことで、自然とコミュニケーション能力が磨かれます。
フィットネス効果と怪我の少なさ
タッチラグビーは「ストップ&ゴー」の連続です。短いダッシュを繰り返すため、有酸素運動としての効果が非常に高く、心肺機能の向上や脂肪燃焼が期待できます。楽しみながら汗をかけるため、ジムでの単調なランニングが苦手な方にも最適です。
そして何より、コンタクトがないため、翌日に仕事や学校があっても安心してプレーできます。「週末にスポーツをしたいけど、月曜日に響くような怪我は困る」という社会人の方にとって、この安全性は最大の魅力と言えるでしょう。
6. タッチラグビーに必要な道具と始め方

最後に、タッチラグビーを始めるにあたって必要な準備と、実際にプレーできる場所の探し方について紹介します。
ボールと服装(スパイクやウェア)
タッチラグビー専用のボールは、通常のラグビーボールよりも一回り小さく作られています。これにより、女性や子供、手の小さい方でも扱いやすくなっています。最初は通常のラグビーボールでも代用可能ですが、本格的に始めるなら専用ボールに触れてみるのが良いでしょう。
服装は、動きやすいスポーツウェアであれば何でも構いません。Tシャツに短パンといったスタイルが一般的です。ただし、相手に怪我をさせないため、ジッパーや金具のついた服、アクセサリー類は外すのがマナーです。
シューズに関しては、芝生や土のグラウンドで行うことが多いため、サッカースパイクやラグビースパイクが推奨されます(金属製のスタッドがついたものは禁止されている場合が多いので、樹脂製のものを選びましょう)。体育館で行う場合は、屋内用のスポーツシューズが必要です。
国内の競技人口と参加できる場所
現在、日本国内には多くのタッチラグビーチームやクラブが存在します。都道府県ごとに協会があり、定期的に体験会や練習会が開催されています。
「タッチラグビー (お住まいの地域)」でWeb検索をすると、地元のクラブチームやサークルが見つかるはずです。多くのチームが初心者歓迎を掲げており、道具の貸し出しを行っているところも多いです。
また、ラグビースクールが保護者向けにタッチラグビー教室を開いているケースや、企業の福利厚生としてチームを持っているケースもあります。まずは気軽に見学や体験会に参加して、チームの雰囲気を感じてみることをおすすめします。
まとめ:タッチラグビーは誰もが楽しめる生涯スポーツ
今回は、安全でエキサイティングなスポーツ「タッチラグビー」について解説しました。記事の要点を振り返りましょう。
- 安全性が高い:タックルの代わりに「タッチ」を用いるため、怪我のリスクが低く、誰でも安心してプレーできます。
- シンプルなルール:6回タッチで交代、トライは1点など、分かりやすいルールで初心者もすぐに楽しめます。
- 誰でも輝ける:男女混合や幅広い年齢層で一緒にプレーでき、ポジションごとに異なる役割で活躍できます。
- 手軽に始められる:特別な防具は不要で、運動ができる服装とシューズがあればすぐに参加できます。
タッチラグビーは、ラグビーの持つ「ノーサイドの精神(試合が終われば敵味方関係なく称え合う)」を受け継ぎつつ、より多くの人が楽しめるように進化したスポーツです。運動不足の解消に、新しい仲間づくりに、そして何より純粋にスポーツを楽しむために、ぜひ一度タッチラグビーの世界に飛び込んでみてください。フィールドでパスをつなぐ爽快感は、きっと病みつきになるはずです。



