ラグビーの試合中、ゴールライン目前で繰り広げられる「5メートルスクラム」。観客のボルテージが一気に最高潮に達する瞬間です。攻撃側にとってはトライ(5点)を一気に奪う絶好のチャンスであり、防御側にとっては絶対に守り抜かなければならない最大のピンチでもあります。しかし、初心者の方からは「なぜあそこでスクラムを組むの?」「どうして反則になることが多いの?」といった疑問もよく聞かれます。この記事では、5メートルスクラムの基本的なルールから、ゴールラインドロップアウトとの違い、そして観戦がさらに面白くなる戦術のポイントまで、やさしくわかりやすく解説します。
5メートルスクラムの基本ルールと適用される場面

まずは、5メートルスクラムがどのような場所で行われ、どういった状況で発生するのか、基本的なルールを押さえておきましょう。通常のスクラムとは少し異なる緊張感がここにはあります。
5メートルスクラムが行われる位置
その名の通り、ゴールラインから「5メートル」離れた地点で組まれるスクラムのことです。ラグビー場のゴールラインの手前には、点線で引かれた「5メートルライン」があります。反則やプレーの停止がゴールラインのすぐ近く(5メートル以内)やインゴール(ゴールエリア内)で起きた場合、スクラムはこの5メートルライン上まで戻されて組まれます。また、タッチライン(横のライン)からも5メートル以上離れなければならないため、どんなに端でプレーが止まっても、必ずゴールラインから5メートル、タッチラインから5メートルの地点が、スクラムを組める最もゴールに近い場所になります。
攻撃ボールになるケース
攻撃側のボールで5メートルスクラムになるのは、まさに「ビッグチャンス」です。代表的なケースは以下の通りです。
攻撃側の5メートルスクラムになる主な例
・相手チーム(防御側)が自らボールをインゴールに持ち込み、グラウンディング(地面につける)した、またはデッド(外に出す)にした場合。
・ゴール前5メートル以内で、防御側がノックオンやスローフォワードの反則をした場合。
・ゴール前での防御側の反則に対し、攻撃側が再開方法として「スクラム」を選択した場合。
特に3つ目の「反則からの選択」は、力自慢のフォワードを持つチームが好んで選ぶ戦術です。
防御ボールになるケース
逆に、防御側のボールで5メートルスクラムになることもあります。これは防御側にとって、ピンチではあるものの、ボールを確保して蹴り出せば危機を脱出できる場面です。
・攻撃側がゴールライン目前(5メートル以内)でノックオンやスローフォワードをした場合。
・攻撃側がボールをインゴールに持ち込んだが、グラウンディングできずにボールが動かなくなった(パイルアップ)場合の一部。
ただし、後述する「ゴールラインドロップアウト」のルール導入により、以前なら防御側の5メートルスクラムだった場面の一部が変更されています。
なぜ「5メートル」離れるのか?
もしゴールラインの真上でスクラムを組んでしまうと、防御側はオフサイドライン(守備の選手が並ぶ線)を確保できず、インゴールの中に立たなければならなくなります。これでは守備が極端に不利になりますし、スクラムを押すスペースもありません。公平に攻防を行うためのスペースとして、最低でも5メートルの距離が確保されているのです。
攻撃側の視点で見る5メートルスクラムの戦術と狙い

ゴールまであとわずか5メートル。攻撃側のチームは、このスクラムからどのようにしてトライを奪おうとするのでしょうか。ここでは代表的な4つの攻撃パターンを紹介します。
力で押し切る「プッシュオーバートライ」
フォワードの8人が一丸となって相手スクラムをそのままゴールラインの向こう側まで押し込み、最後にボールを押さえてトライする方法です。これはフォワードにとって最大の見せ場であり、相手チームに精神的なダメージを与えることもできます。観客席からも「押せ!押せ!」という大歓声が湧き起こる、最もエキサイティングなプレーの一つです。
ナンバーエイト(No.8)のアタック
スクラムの一番後ろにいるナンバーエイト(No.8)が、足元のボールを拾い上げて自ら突進するプレーです。スクラムハーフがボールを出すのを待つのではなく、意表を突いてサイド(スクラムの横)を駆け抜けます。相手のディフェンスがスクラムを押すことに集中している隙を狙うため、No.8には瞬発力と判断力が求められます。これを「サイドアタック」と呼ぶこともあります。
バックスによる一次攻撃(サインプレー)
スクラムを起点にして、バックス(後ろの選手たち)が一気に勝負をかけるパターンです。5メートルスクラムの場合、防御側のバックスもゴールライン上に並ばなければならないため、攻撃側との距離が生まれます。この距離を利用して、パスを回したり、キックパスを使ったりして、相手ディフェンスが追いつく前にトライを狙います。あらかじめ決められた「サインプレー」が鮮やかに決まると、会場が沸き立ちます。
ペナルティトライ(認定トライ)を狙う
相手がスクラムで反則を繰り返した場合、レフリーは「もし反則がなければトライできていた」と判断し、「ペナルティトライ(7点)」を与えることがあります。攻撃側があえてスクラムを押し込み続け、相手が耐えきれずに崩れる(コラプシングなどの反則をする)のを誘うのも高度な戦術です。この場合、ゴールキックなしで自動的に7点が入るため、非常に大きな得点源となります。
防御側の対応と守り方のポイント

一方、守る側にとって5メートルスクラムは絶体絶命のピンチです。ここでミスをすれば失点に直結するため、非常に高い集中力が求められます。
最優先は「スクラムを安定させること」
防御側の最大の目標は、ボールを奪い返すことよりも、まずは「反則をしないこと」です。相手に押されまいと無理な体勢で組んだり、故意に崩したりすると、ペナルティを取られてしまいます。最悪の場合、ペナルティトライを献上したり、イエローカード(10分間の退場)が出たりすることもあります。そのため、まずは8人が結束して低い姿勢を保ち、相手の圧力を真っ向から受け止めてスクラムを安定させることが重要です。
フランカーのプレッシャー
スクラムの横にいるフランカー(6番・7番)の役割も重要です。彼らはスクラムを押しつつも、相手のNo.8やスクラムハーフがボールを持って飛び出してきた瞬間に、素早くタックルに入れるよう準備しています。スクラムから一瞬で体を離し、相手のアタックを封じる「ブレイク」の速さが、失点を防ぐ鍵となります。
バックスのディフェンスライン
防御側のバックス陣は、ゴールライン上に並んでスタートします。ここから相手がボールを出した瞬間に一気に前に飛び出し、プレッシャーをかける必要があります。これを「シャローディフェンス」や「詰めディフェンス」と呼びます。ただし、飛び出すタイミングが早すぎるとオフサイドになるため、ギリギリの駆け引きが求められます。
よくある反則とレフリーの判定基準

5メートルスクラムでは、お互いの力が拮抗し、プレッシャーがかかるため、反則が起きやすくなります。よく耳にする反則用語を覚えておくと、観戦がスムーズになります。
コラプシング(崩れる)
スクラムが崩れ落ちてしまう反則です。「Collapse(崩壊する)」という言葉が由来です。故意にスクラムを崩したと判定された側の反則になります。ゴール前では、防御側が相手の押しに耐えきれずに膝をついて崩れてしまうケースが多く見られます。危険なプレーなので、レフリーは厳しく判定します。
アーリープッシュ(早押し)
レフリーが「セット」と言う前、あるいはボールが投入される前に、フライングして押してしまう反則です。ゴール前では、攻撃側は「早く押してトライを取りたい」、防御側は「早く押してプレッシャーをかけたい」とはやる気持ちが出るため、この反則が起こりがちです。
ホイール(回転する)
スクラムが90度以上回転してしまうことです。意図的に回したと判断されればペナルティになります。もし自然に回ってしまった場合は、回転してしまった地点で、もう一度スクラムを組み直すことが多いです。
バックスのオフサイド
スクラムに参加していないバックスの選手には「オフサイドライン」があります。攻撃側はスクラムの最後尾(No.8の足元)、防御側はゴールライン(5メートルスクラムの場合)です。ボールがスクラムから出る前に、このラインを超えて前に出てしまうとオフサイドの反則になります。焦って飛び出しすぎないことが大切です。
ゴールラインドロップアウトとの違いとルール変更

近年、ラグビーのルール変更により、「以前なら5メートルスクラムだった場面」が「ゴールラインドロップアウト」に変わったケースがあります。ここを理解しておくと、現代ラグビーをより深く楽しめます。
ゴールラインドロップアウトとは?
防御側が自陣のゴールライン上から、ドロップキックでボールを蹴り出してプレーを再開する方法です。これまでは「22メートルラインからのドロップアウト」が主流でしたが、より攻撃を活性化させるために導入されました。
「ヘルドアップ」時の変更点
ここが最大の変更点です。 以前は、攻撃側がインゴールに持ち込んだものの、防御側に邪魔されてボールを地面につけられなかった(ヘルドアップ)場合、攻撃側の5メートルスクラムで再開されていました。しかし現在のルールでは、このケースは「ゴールラインドロップアウト」で再開されます。
防御側がインゴールで押さえた場合
攻撃側が蹴り込んだボールを、インゴール内で防御側が押さえた(グラウンディングした)場合も、以前は22メートルドロップアウトでしたが、現在はゴールラインドロップアウトになります。
それでも5メートルスクラムになる場合
「じゃあ、5メートルスクラムは減ったの?」と思うかもしれません。確かに減りましたが、以下のケースでは依然として「攻撃側の5メートルスクラム」になります。
・防御側のプレイヤーが、フィールドオブプレー(インゴールの外)から自らボールをインゴールへ持ち込み、そこでボールをデッドにした場合。
これは、防御側がピンチを逃れるために安易にボールを消す行為を防ぐためのルールです。
観戦がもっと楽しくなる5メートルスクラムの注目点

ルールがわかったところで、実際の試合でどこに注目すればよいか、5メートルスクラムならではの見どころを紹介します。
心理戦と駆け引き
5メートルスクラムは、単なる力比べではありません。レフリーとの対話も重要な要素です。スクラムを組む前、フロントロー(最前列の選手)はレフリーに「相手が斜めに押してくる」「バインド(掴む位置)がおかしい」などをアピールします。この心理戦が、その後の反則判定に影響することもあります。
選手交代(インパクトプレーヤー)
試合終盤の5メートルスクラムでは、選手交代が勝負を分けることがあります。疲労したプロップ(1番・3番)に代わって、元気な「インパクトプレーヤー」が入ってくることで、スクラムの形勢が一気に逆転することがあります。リザーブ選手が登場した直後のスクラムは要注目です。
キャプテンの決断
相手の反則でペナルティをもらった時、キャプテンが何を選択するかにも注目です。確実に3点を取る「ペナルティゴール」を選ぶのか、リスクを冒してでも5点(+2点)を狙いに「もう一度スクラム」を選択するのか。その判断には、点差、残り時間、そして「今のスクラムなら押し勝てる」という自信が反映されています。キャプテンが指をくるくると回して「スクラム選択」をレフリーに伝えた瞬間、スタジアムは大きく盛り上がります。
まとめ:5メートルスクラムのルールを知って観戦を極めよう
5メートルスクラムは、ラグビーというスポーツの「激しさ」と「緻密さ」が凝縮された瞬間です。たった5メートルの距離を巡って、体重100キロを超える大男たちが全力を出し切り、ミリ単位の駆け引きを行っています。
攻撃側にとっては「押し込んでトライをもぎ取るか、裏をかくか」の選択の場であり、防御側にとっては「チームの結束でゴールラインを死守する」試練の場です。さらに、近年のルール変更により「ヘルドアップ=ドロップアウト」となったことで、攻撃側はより確実にボールを地面につける技術が求められるようになりました。
次に試合で5メートルスクラムが組まれたら、ぜひ「攻撃側の狙いは何か?」「防御側は耐えられるか?」と予想しながら見てみてください。きっと今まで以上に手に汗握る興奮を味わえるはずです。

