ラグビーの試合を見ていると、ボールをパスした選手がそのまま走り続け、味方の後ろを回ってもう一度ボールをもらう動きを目にすることがあります。これは「ループパス」と呼ばれる基本的なサインプレーのひとつです。シンプルながらも非常に奥が深く、世界のトップチームでも頻繁に使われている戦術です。
なぜ、わざわざ一度手放したボールをもう一度もらう必要があるのでしょうか。一見すると遠回りをしているように見えるこの動きには、相手ディフェンスを崩すための重要な意図が隠されています。攻撃のリズムを変えたり、相手の守備網に穴をあけたりするために、ループパスは欠かせない選択肢なのです。
この記事では、ループパスが持つ具体的な効果や、試合で有効な場面、そして成功させるためのコツについて詳しく解説していきます。ラグビーを始めたばかりの方や、もっと戦術を深く理解したい観戦ファンの方にもわかりやすくお伝えしますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
ループパスの基本的な効果と仕組み

ループパスとは、パスの出し手(パッサー)がパスの受け手(レシーバー)の後ろを回って移動し、再びレシーバーからパスを受けるプレーのことを指します。この一連の動きは、単にボールを動かすだけでなく、相手ディフェンスに対して心理的・物理的なプレッシャーを与える大きな効果を持っています。
ラグビーの攻撃において、なぜこの動きが有効なのか、その根本的な仕組みを理解することで、プレーの質は格段に向上します。ここでは、ループパスがもたらす主な4つのメリットについて深掘りしていきましょう。
相手ディフェンスのマークをずらす
ループパスの最大の効果は、相手ディフェンスのマークをずらせる点にあります。ラグビーのディフェンスは基本的に、目の前の攻撃プレイヤー(トイメン)をマークします。しかし、一度パスを出した選手が再び動き出すことで、ディフェンスは「誰をマークすればいいのか」という判断を瞬時に迫られることになります。
パスを出した選手が消えたと思ったら、再び外側から現れるため、ディフェンスの視線は左右に振られます。この一瞬の迷いや視線の移動が、守備ラインの連携を乱すきっかけとなるのです。特に、規律正しく並んでいるディフェンスに対して、イレギュラーな動きを加えることで混乱を誘うことができます。
ディフェンスはボールと人を同時に見る必要があるため、ボールが移動し、かつ人も複雑に動くループパスは、視覚的な情報を過多にして判断ミスを誘発します。
数的有利(オーバーラップ)を作り出す
攻撃側にとって最も理想的な状況は、守る人数よりも攻める人数が多い「数的有利(オーバーラップ)」の状態です。ループパスは、この数的有利を人為的に作り出すために非常に有効な手段となります。パスを出した選手が再び攻撃ラインに参加することで、攻撃の枚数が実質的に1人増えるような形になるからです。
通常、パスを出した選手はその場でプレーに関与しなくなることが多いですが、ループして外側に走り込むことで、相手ディフェンスの人数が足りない状況を生み出せます。例えば、3対3の状況であっても、ループを使うことで瞬間的に4対3のような状況を作り出し、大外にフリーなスペースを確保することが可能になります。
攻撃のテンポとリズムを変える
ラグビーの攻撃では、一定のリズムでパスを回しているだけでは、相手ディフェンスも対応しやすくなります。そこにループパスを織り交ぜることで、攻撃のテンポに変化をつけることができます。通常のパス回しとは異なるタイミングでボールが動くため、相手の予測を裏切ることができるのです。
直線的なパス交換の中に、曲線的な動きであるループが入ると、全体のスピード感が変わります。相手ディフェンスが「次は外に展開するだろう」と予測して足並みを揃えている時に、一度内側でタメを作るような動きが入るため、相手の足が止まったり、飛び出しのタイミングが遅れたりする効果が期待できます。
パッサーが再びボールを持って判断できる
ゲームメイクをする選手(主にスタンドオフなど)がループパスを使う場合、一度ボールを預けてから再びボールを持つことで、より広い視野で戦況を判断できるというメリットがあります。パスを出して回り込む数秒の間に、相手ディフェンスの動きや味方の位置を再確認することができるのです。
ボールを持っていない「オフ・ザ・ボール」の動きの中でフィールド全体を俯瞰し、再びボールを受けた瞬間に最適なプレー(パス、キック、ラン)を選択できます。このように、司令塔となる選手が自分自身で時間とスペースを作り出し、決定的な仕事をするための準備動作としても、ループパスは非常に機能的な役割を果たします。
ループパスが有効なシチュエーション

ループパスはどんな場面でも使える魔法の杖ではありません。使うタイミングや場所を間違えると、逆に攻撃の流れを止めてしまったり、相手に詰め寄られてピンチを招いたりすることもあります。効果を最大化するためには、適切なシチュエーションを見極めることが重要です。
試合の流れの中で、どのような瞬間にループパスを選択すべきなのでしょうか。ここでは、特に効果を発揮しやすい具体的な場面をいくつか挙げて説明します。
相手ディフェンスラインが揃っている時
相手のディフェンスラインがきれいに横一列に揃っている時は、単純なパス回しだけでは突破が難しい場合があります。このような膠着状態を打破するために、ループパスが役立ちます。整然としたディフェンスに対して横の揺さぶりをかけることで、ギャップ(選手間の隙間)を生み出しやすくなるからです。
ディフェンスが組織的に動いている時ほど、予測外の動きに対する反応が遅れることがあります。ループパスによってディフェンスの視線を内側に集めたり、逆に外側に広げたりすることで、強固な守備網にほころびを作ることができます。相手が待ち構えている時こそ、変化球としてのループが効果的です。
我慢強くディフェンスしてくる相手に対して、単調な攻撃を繰り返すのではなく、アクセントとしてループを入れると効果的です。
攻撃ライン(バックス)での展開時
スクラムやラインアウトなどのセットプレーからボールが出て、バックスラインで大きく展開する場面は、ループパスの絶好の機会です。特にフィールドの中央付近からサイドライン際までの広いスペースがある場合、ループを使って攻撃の枚数を増やすことで、大外で決定的なチャンスを作ることができます。
スタンドオフからセンターへパスし、その外側をスタンドオフが回る動きは古典的ですが、今でも非常に有効です。広いスペースがあればあるほど、ループして走り込む距離と時間を確保しやすく、スピードに乗った状態で再びボールを受けることが可能になります。
相手の足が止まった瞬間や疲労が見える時
試合の後半や、連続攻撃で相手ディフェンスに疲労が見え始めた時も、ループパスを仕掛けるチャンスです。ループパスへの対応には、ディフェンス側もコミュニケーションを取りながらマークを受け渡す必要がありますが、疲れてくるとこの連携が疎かになりがちです。
足が止まっているディフェンスに対して、運動量の多いループパスを仕掛けることで、相手はついていけなくなります。「わかっているけど止められない」という状況を作り出せれば、そこから一気にラインブレイク(突破)につながる可能性が高まります。
ループパスを成功させるためのポイント

ループパスは仕組み自体はシンプルですが、実戦で成功させるためには高いスキルと連携が求められます。ただ走って回れば良いというわけではなく、パスの精度や走るコース、タイミングが完璧に噛み合って初めて効果を発揮します。
ここでは、ループパスを効果的に決めるために意識すべき具体的な技術的ポイントを解説します。これらの要素を練習から意識することで、試合で使える武器に仕上げていきましょう。
パスした後の動き出しのスピード
ループパスにおいて最も重要な要素の一つが、パスを出した直後の初速です。パスを放ってからゆっくりとジョギングのように動き出しても、相手ディフェンスには何の脅威も与えられません。パスを出した瞬間にトップスピードに切り替え、素早くレシーバーの後ろへ回り込む必要があります。
この「ギアチェンジ」の速さが、相手ディフェンスを置き去りにする鍵となります。自分が再びボールをもらう位置まで、誰よりも速く到達する意識を持ちましょう。ダッシュのスピードが速ければ速いほど、相手は対応する時間を奪われ、後手に回ることになります。
おとり(デコイ)となる選手の動き
ループパスを成立させるためには、中継役となる選手(一度ボールを受ける選手)の動きも非常に重要です。この選手は単なる壁ではありません。相手ディフェンスを引きつけるための「おとり(デコイ)」としての役割を果たしつつ、正確なリターンパスを供給しなければなりません。
ボールを受けた選手は、自分が突破を狙っているかのように前へ強く出る姿勢を見せることが大切です。そうすることで、目の前のディフェンスを自分に釘付けにできます。ディフェンスを引きつけてから、背後を回ってきた味方に絶妙なタイミングでパスを出す、高度な判断とスキルが求められます。
パスのタイミングと距離感
ループパスは、パスの出し手と受け手の呼吸が合わなければ成功しません。特にリターンパス(戻しのパス)のタイミングは繊細です。早すぎればディフェンスに詰められますし、遅すぎればパスコースが塞がれてしまいます。相手ディフェンスの位置を見ながら、ギリギリまで引きつけてパスを出す必要があります。
また、お互いの距離感も重要です。近すぎるとパスが詰まってしまい、遠すぎるとパスの滞空時間が長くなってインターセプト(パスカット)されるリスクが高まります。練習の中で、お互いが最もスピードに乗れる距離感とタイミングを体に染み込ませることが不可欠です。
声かけ(コミュニケーション)の重要性
サインプレー全般に言えることですが、ループパスにおいても「声」は重要な武器です。ループを仕掛ける選手は「ループ!」「回るぞ!」といった声を出し、味方に自分の意図を明確に伝える必要があります。声があることで、中継役の選手も準備ができ、ミスのないプレーにつながります。
逆に、あえて大きな声を出して相手を惑わせるという高度な駆け引きもありますが、基本的には味方同士の意思疎通を最優先にします。特に混戦の中では、視覚情報だけでなく聴覚情報での連携がプレーの成功率を大きく左右します。
ループパスの種類とバリエーション

一口にループパスと言っても、誰と誰が行うか、どのエリアで行うかによって、そのバリエーションは多岐にわたります。ポジションごとの特性を活かした組み合わせを知っておくことで、戦術の幅はさらに広がります。
ここでは、試合でよく見られる代表的なループパスのパターンを5つ紹介します。チームの強みや状況に合わせて、これらのバリエーションを使い分けることが攻撃の厚みを生み出します。
スタンドオフとセンターのループ
最も基本的で頻繁に使われるのが、スタンドオフ(10番)とインサイドセンター(12番)の間で行われるループパスです。司令塔であるスタンドオフがパスを出し、センターの後ろを回って再びボールを受け取ります。ゲームの組み立ての中で自然に導入しやすく、安定感のあるプレーです。
このパターンは、攻撃の起点となるエリアで行われることが多いため、その後の展開の選択肢が豊富です。再びボールを持ったスタンドオフは、外側のバックスへパスを展開したり、自ら突破を図ったり、あるいは裏のスペースへキックを蹴ったりと、多彩な攻撃を仕掛けることができます。
センター同士のループ
インサイドセンター(12番)とアウトサイドセンター(13番)の間で行うループパスも効果的です。フィールドの中央付近でディフェンスが密集している場合、センター同士のコンビネーションで相手の守備網をこじ開ける際に使われます。フィジカルの強いセンター陣であれば、より脅威が増します。
このプレーは、相手ディフェンスの中盤を混乱させるのに適しています。センターが縦に強いランを見せることで相手を収縮させ、その裏をかいてループで外にボールを運ぶことで、外側のウィングに対して良い形でボールを供給することができます。
ウィングが参加する大外のループ
タッチライン際でウィング(11番、14番)が参加するループパスは、トライを取り切るための決定的なプレーとして使われます。例えば、フルバックやセンターがライン際へ走り込み、ウィングにパスを出した後、さらにその外側や内側をループしてボールをもらう形です。
狭いスペースでの高度なスキルが求められますが、成功すれば一気にトライゾーンへ直結します。相手ディフェンスもタッチラインを背負って必死に守っているため、意表を突くループの動きは致命的なダメージを与えることができます。
フォワードを絡めたループプレー
バックスだけでなく、フォワードの選手を中継役にしたループパスも非常に有効です。身体の大きなフォワード選手がボールを持つと、相手ディフェンスはタックルに集中するために集まってくる傾向があります。その心理を逆手に取る戦術です。
スタンドオフなどがフォワードにパスを出し、その巨体の影に隠れるようにしてループをかけると、ディフェンスからはパッサーの動きが見えにくくなります。フォワードがコンタクトすると見せかけて、背後を走るバックスに柔らかいパスを通すプレーは、現代ラグビーでも頻繁に見られる高度な連携です。
ショートループとロングロループの違い
ループパスには、移動距離によって「ショートループ」と「ロングロループ」の使い分けがあります。ショートループは、パスを出した直後に小さく素早く回り込む動きで、狭い局面での突破やディフェンスの裏を突く際に適しています。テンポが速く、相手に対応する隙を与えません。
一方、ロングロループは大きく外側へ回り込む動きです。これは主にフィールドを横に大きく使って数的有利を作りたい時に有効です。移動距離が長いためスタミナを使いますが、相手ディフェンスを大きく横に揺さぶることができ、外側のスペースを最大限に活用することができます。
ループパスのデメリットと注意点

これまでループパスのメリットや効果を中心に解説してきましたが、当然ながらリスクやデメリットも存在します。これらを理解せずに多用してしまうと、かえって自分たちを不利な状況に追い込んでしまう可能性があります。
戦術としての完成度を高めるためには、弱点もしっかりと把握しておく必要があります。ここでは、ループパスを使う際に注意すべき3つのポイントについて説明します。
プレーが横に流れてしまうリスク
ループパスの構造上、どうしてもボールと人が横方向(サイドライン方向)に移動することになります。これが過度になると、攻撃全体が「横流れ」になってしまい、前に進む推進力(ゲイン)が失われてしまうリスクがあります。
ラグビーの本質は陣地を前に進めることです。横にばかり動いていては、相手ディフェンスにサイドラインまで追い込まれてしまい、逃げ場を失ってしまいます。「前に出る」という意識を常に持ちながら、あくまで前進するための手段として横の動きを使うバランス感覚が求められます。
スタミナの消耗と運動量
ループパスを行う選手は、パスを出した後に全力疾走で回り込み、再びプレーに参加するという大きな運動量を強いられます。一回のプレーでの走行距離が長くなるため、これを頻繁に繰り返すとスタミナの消耗が激しくなります。
特に試合終盤で疲労が蓄積している時に無理にループパスを狙うと、走り切るスピードが落ちて失敗する原因になります。自分たちの体力状況を考慮し、ここぞという勝負どころで使う判断力が重要です。無駄に走り回るだけにならないよう、効率的な動きを心がける必要があります。
失敗した時のカウンターのリスク
ループパスはボールが空中にある時間が長く、パスの回数も増えるため、ハンドリングエラー(ノックオンなど)やインターセプトのリスクが通常よりも高まります。もし相手にパスカットされてしまうと、前掛かりになっている分、背後に広大なスペースが空いており、一気に独走トライを許す危険性があります。
また、中継役の選手が孤立してタックルを受けた場合、サポートの選手が遠くなってしまい、ボールを奪われる(ターンオーバー)可能性もあります。リスク管理として、サポートプレイヤーの配置や、失敗した際のディフェンスへの切り替え意識も常に持っておかなければなりません。
効果的な練習方法と習得のコツ

頭で理解していても、実際にフィールドでスムーズなループパスを行うのは簡単ではありません。無意識レベルで体が動くようになるまで、反復練習を行うことが大切です。初心者からでも始められる、段階的な練習方法を紹介します。
基礎的な動きの確認から、実戦に近い形式まで、ステップアップしながら練習に取り組んでみてください。正確な技術とあうんの呼吸を身につけることが、試合での成功への近道です。
ウォーキングでの基本動作確認
最初はいきなり走らず、歩きながら(ウォーキング)動きの軌道を確認することから始めましょう。パスを出した後にどのコースを通ってレシーバーの後ろへ回るのか、レシーバーはどのタイミングでボールを戻すのか、お互いの位置関係を丁寧に確認します。
この段階では、ボールを見ずに感覚だけで位置を把握できるようになることを目指します。また、声をかけ合うタイミングもここで確認しておきます。ゆっくりとした動きの中で正確なフォームを身につけることが、スピードを上げた時の安定感につながります。
2対1、3対2での実戦形式
動きに慣れてきたら、次はディフェンスをつけて練習します。最初は「2対1」や「3対2」といった、攻撃側が有利な状況を設定します。ディフェンス役には軽くプレッシャーをかけてもらい、その中でループパスを使って相手を崩す感覚を養います。
ディフェンスがいることで、「いつパスを出すべきか」「どの角度で走り込めばマークを外せるか」という判断力が磨かれます。単に形をなぞるだけでなく、ディフェンスの動きを見て反応する練習を繰り返しましょう。成功体験を積み重ねることが自信になります。
スピードと変化をつけた応用練習
最終段階では、トップスピードでの練習を行います。試合と同じ強度で走り、パスのスピードも上げます。ここでは、わざとパスを乱したり、ディフェンスに激しく詰めてもらったりして、不測の事態に対応する能力も鍛えます。
また、ループすると見せかけて自分で突破する(ダミー)動きも混ぜることで、より実戦的な駆け引きが身につきます。「ループありき」ではなく、状況に応じてループを選択できるような判断力を養うことが、この練習の目的です。
ループパスの効果を理解して決定力を上げよう
ループパスは、ラグビーの攻撃において非常に強力な武器となる戦術です。相手ディフェンスの目線をずらし、数的有利を作り出し、攻撃のリズムに変化を加えることができます。基本的な動きはシンプルですが、その効果は試合の局面を大きく変える力を持っています。
記事の中で解説した通り、ループパスを成功させるためには、パス後の素早い動き出し、おとりとなる選手の演技力、そして正確なタイミングとコミュニケーションが不可欠です。また、メリットだけでなく、横流れになるリスクやスタミナ消耗といったデメリットも理解した上で使うことが重要です。
観戦する際は「あ、今ループを使った!」と注目してみると、攻撃の意図がより深く理解できて楽しくなるはずです。プレーヤーの方は、ぜひ練習に取り入れて、自分たちのチームの攻撃オプションを広げてみてください。ループパスを使いこなして、相手ディフェンスを翻弄する爽快感を味わいましょう。



