ラグビーの試合を観戦していると、「センター(CTB)」というポジション名をよく耳にするのではないでしょうか。フォワードとバックスの間に位置し、激しいコンタクトプレーも華麗なパスワークもこなす彼らは、まさにチームの要といえる存在です。
しかし、初心者の方にとっては「具体的に何をする人なのかわかりにくい」「12番と13番で何が違うの?」と疑問を感じやすいポジションでもあります。実は、センター ラグビーの戦術において非常に重要な鍵を握っており、このポジションの動きを理解すると観戦の面白さが何倍にも広がります。
この記事では、ラグビーにおけるセンターの役割や特徴、インサイドとアウトサイドの違い、そして世界や日本で活躍する有名選手について、初心者の方にもわかりやすく徹底解説します。ぜひ最後まで読んで、センターの魅力を発見してください。
ラグビーのセンター(CTB)とは?基本的な役割と特徴

ラグビーチームには15人の選手がいますが、その中で背番号12番と13番をつけるのが「センター(CTB)」です。英語では「Centre Three-quarter Backs(センター・スリークォーター・バックス)」と呼ばれ、フィールドの中央で攻守にわたり激しく動き回るポジションです。
まずは、センターがチームの中でどのような役割を担っているのか、基本的な特徴から見ていきましょう。彼らは単にパスを回すだけではなく、体を張ったプレーでチームに勢いをもたらす重要な存在です。
フィールドの中央を支配する「何でも屋」
センターは、スクラムやラインアウトなどのセットプレーからボールが出た際、フォワードとウイング(WTB)の間をつなぐ位置にいます。この場所は敵味方が入り乱れる激戦区であり、判断の速さとプレーの正確さが求められます。
そのため、センターには「何でもできること」が求められます。パス、キック、ラン、タックルといったすべてのスキルが高いレベルで備わっていなければなりません。ある時はフォワードのように相手に体をぶつけ、ある時はバックスとして華麗に抜け出す。まさにチームの万能選手としての役割を果たします。
もしセンターの選手が弱ければ、そこを起点に相手に突破されてしまいますし、逆に攻撃ではボールが外側のウイングまで届きません。チームの強さを左右する「背骨」のようなポジションだと言えるでしょう。
攻撃では突破役とつなぎ役の二刀流
攻撃において、センターには大きく分けて二つの仕事があります。一つは自らボールを持って相手ディフェンスラインに突っ込み、前進することです。これを「縦への突破」や「クラッシュ」と呼びます。相手の防御を崩し、味方の攻撃スペースを作ります。
もう一つは、外側にいる快足のウイングやフルバックに良い状態でボールを渡す「つなぎ役」としての仕事です。相手を引きつけておいてラストパスを出したり、長いパスで一気に展開したりします。この「突破」と「つなぎ」を瞬時に使い分ける判断力が、優れたセンターの条件です。
守備では相手を止める「防波堤」となる
ディフェンス面でもセンターの責任は重大です。相手チームも当然、フィールド中央を突破しようと強力な選手をぶつけてきます。センターは彼らに対して真っ向からタックルし、前進を食い止めなければなりません。
特に、相手の攻撃の起点となるスタンドオフ(10番)や、突進してくる相手センターに対して、一歩も引かずに体を張る強さが求められます。ここでタックルを外されると、一気にトライまで持っていかれる危険性が高いため、チームで最もタックルが強い選手が配置されることも珍しくありません。
また、個人のタックル能力だけでなく、味方のディフェンスラインを統率する役割もあります。「誰が誰を見るか」を隣の選手と声を掛け合い、防御網に穴が空かないようにコントロールする司令塔のような側面も持っています。
司令塔(スタンドオフ)を助ける右腕の役割
ラグビーの司令塔といえば背番号10のスタンドオフ(SO)ですが、センターはそのすぐ外側に位置するため、SOをサポートする重要なパートナーとなります。SOが激しいプレッシャーを受けたときに代わりにキックを蹴ったり、次の攻撃指示を出したりします。
現代ラグビーでは、相手の守備が非常に組織化されているため、一人の司令塔だけでは崩すのが難しくなっています。そこで、12番のセンターが「第2の司令塔」としてゲームメイクに参加するケースが増えています。SOとセンターの連携がスムーズかどうかが、チームの得点力に直結するのです。
インサイドセンター(12番)とアウトサイドセンター(13番)の決定的な違い

ひとくちに「センター」といっても、内側に位置する12番(インサイドセンター)と、外側に位置する13番(アウトサイドセンター)では、求められる役割やプレースタイルが異なります。二人はコンビを組んで戦いますが、それぞれの得意分野を知ることで、観戦の解像度がさらに上がります。
ここでは、一般的に言われている12番と13番の役割分担について詳しく解説します。ただし、チームの戦術によっては役割が入れ替わることもありますので、基本的な傾向として捉えてください。
12番(インサイド)は「第2の司令塔」であり「突撃隊長」
背番号12をつけるインサイドセンターは、スタンドオフの隣に位置します。そのため、パスやキックなどのゲームメイク能力が高く、司令塔に近いスキルセットを持つ選手が重宝されます。スタンドオフからのパスを受け、さらに外へ展開するか、自分で仕掛けるかの判断を担います。
同時に、フィジカルの強さも非常に重要です。攻撃の第一波として、相手の屈強なフォワードたちが待ち構えるエリアに突っ込んでいく「突撃隊長」としての役割も求められるからです。強烈なタックルを受けてもボールを失わず、味方がサポートに来るまでの時間を作る強さが必要です。
つまり、12番は「頭脳」と「肉体」の両方を高いレベルで駆使するポジションと言えます。キックが得意な選手であれば、陣地を回復するためのロングキックを蹴ることもあります。
13番(アウトサイド)はスピードで勝負する「チャンスメーカー」
背番号13をつけるアウトサイドセンターは、12番よりも外側、ウイングの内側に位置します。ここでは相手との距離やスペースが少し広くなるため、スピードやステップワークで相手を抜き去るランニング能力が重視されます。
13番の主な仕事は、12番から受け取ったボールを活かして相手ディフェンスを突破し、外側のウイングに「決定的なパス」を送ることです。自らトライを取り切る力も必要ですし、味方を生かすアシスト能力も求められます。まさに攻撃の仕上げを行うチャンスメーカーです。
ディフェンスにおいても、13番は非常に難しい判断を迫られます。外側の広いスペースを守るため、相手を内側に追い込むのか、それとも外側に追い出してタッチライン際で仕留めるのか、瞬時の判断ミスが失点につながるスリリングなポジションです。
昔とは違う?現代ラグビーにおける役割の変化
かつてのラグビーでは、12番は突破役、13番はスピードスターというように役割が明確に分かれていました。しかし、現代ラグビーでは選手が大型化・高速化し、全員がマルチな能力を持つようになっています。
最近のトレンドでは、12番と13番の両方に司令塔的な能力を持たせ、どちらからでも攻撃を組み立てられる「ダブル司令塔」システムを採用するチームもあります。また、あえて13番タイプの選手を12番に置き、攻撃力を最大化する戦術も見られます。
このように、センターの役割は進化し続けています。試合を見る際は、「このチームの12番はパスが得意なのか、それとも突破が得意なのか」という点に注目すると、チームごとの戦術の違いが見えてきて面白いでしょう。
左右でポジションを決める「レフト・ライト」制との違い
少しマニアックな話になりますが、ラグビーリーグ(13人制)や昔の一部の戦術では、背番号ではなく「左センター」「右センター」という分け方をすることがありました。スクラムの左右どちらにボールが出るかによって立ち位置を変えるスタイルです。
しかし、現在の一般的な15人制ラグビー(ラグビーユニオン)では、フィールドの左右に関係なく、内側に立つのが12番、その外側に立つのが13番という並びが基本です。これにより、選手ごとの専門性を高め、複雑なサインプレーを遂行しやすくなっています。
センターに求められるスキルと身体能力

センターは「最も過酷なポジションの一つ」と言われることがあります。それは、フォワード並みのコンタクトとバックスのスピード、そして司令塔の頭脳という、相反するような能力がすべて求められるからです。
ここでは、一流のセンターになるために欠かせない具体的なスキルと身体能力について深掘りしていきます。もしあなたがラグビーをプレーしているなら、練習の目標として参考にしてみてください。
激しい衝突に負けない強靭な「フィジカル」
センターは試合中、何度もタックルをし、タックルを受けます。相手のフォワード(体重100kgを超える選手たち)が勢いをつけて走ってくるのを止める場面も多々あります。そのため、当たり負けしない強靭な肉体(フィジカル)は必須条件です。
単に体重があればいいわけではありません。衝突の瞬間に力を集中させる「インパクトの強さ」や、倒された後にすぐに起き上がって次のプレーに参加する「タフネス」も重要です。体幹を鍛え上げ、激しい衝撃に耐えうる体を作ることが、センターとしての第一歩です。
瞬時の判断でトライを生む「パススキル」と「ランニング」
ボールを持った瞬間、センターの前には相手ディフェンスが壁のように立ちはだかります。その狭いスペースの中で、「自分で抜くか」「味方にパスするか」を0.5秒以下の速さで判断しなければなりません。
特に「オフロードパス」というスキルは、センターの見せ場の一つです。タックルを受けながら倒れずに味方にパスをつなぐ技術で、これが成功すると相手ディフェンスは対応できず、ビッグゲイン(大幅な前進)につながります。ハンドリングスキルの高さは、名センターの証です。
ピンチを救う正確で激しい「タックル」技術
センターにとって、タックルは「できればいい」ものではなく「絶対に失敗できない」ものです。センターが抜かれると、後ろにはフルバックしか残っていないことが多く、即トライにつながるからです。
相手の懐に鋭く入る「刺さるタックル」や、相手のボールを抱え込んでパスを出させない「チョークタックル」など、状況に応じたタックル技術が求められます。恐怖心に打ち勝ち、相手を仰向けに倒すような激しいタックルは、チーム全体の士気を高めます。
キックを使って陣地を挽回する能力
近年、センターにもキック力が強く求められるようになっています。特に12番の選手は、スタンドオフがマークされているときに、代わりにキックを蹴るオプションとなります。
ディフェンスの裏のスペースに転がす「グラバーキック」や、相手陣地の空いている場所に落とす「パントキック」など、多彩なキックを使えると攻撃の幅が大きく広がります。足元の技術も疎かにできないのが、現代のセンター事情です。
センターの攻撃と守備における具体的な動き方

役割やスキルがわかったところで、実際の試合中にセンターがどのような動きをしているのか、より具体的なシーンを想像してみましょう。攻撃と守備、それぞれの場面での「センターならではの動き」を紹介します。
これらの動きを知っておくと、テレビ観戦中に「あ、今12番が囮になった!」「13番が良い詰めをした!」と、プレーの意図が読めるようになります。
攻撃時:クラッシュで相手を集めて外へ展開する
基本的な攻撃パターンの一つが「クラッシュ」です。スクラムやラインアウトからボールを受けたセンターが、真っ直ぐ相手に突っ込みます。一見、無理やり攻めているように見えますが、これには明確な意図があります。
センターが力強く突進することで、相手ディフェンスはそれを止めるために2人、3人と集まってきます(コミットすると言います)。すると、その周辺や外側に守備の人数が少ないスペースが生まれます。次のフェーズ(攻撃の局面)でそのスペースを攻めるための、布石としての突進なのです。
攻撃時:デコイ(囮)となって味方をフリーにする
センターがボールを持たずに走り込むプレーも非常に重要です。これを「デコイ(囮)ラン」と呼びます。例えば、12番が「ボールをもらうぞ!」という迫力で走り込み、相手ディフェンスの注意を引きつけます。
しかし、実際にはボールは12番の後ろを通って10番から13番へパスされます。相手ディフェンスが12番につられて動いてしまえば、13番の目の前には誰もいないフリーな空間が広がります。ボールを持っていないときの「演技力」や「献身性」も、センターの大切な仕事です。
メモ: 良いセンターは、自分がボールを持たない場面でもサボりません。囮として全力で走ることで、味方にトライを取らせるのです。これこそが「ラグビーは自己犠牲の精神」と言われる所以でもあります。
守備時:詰めろ!相手の時間を奪うシャローディフェンス
ディフェンスにはいくつかのシステムがありますが、センターが鍵となるのが「シャローディフェンス」です。これは、ディフェンスライン全体が一斉に前に飛び出し、相手との距離を一気に詰める守り方です。
相手にパスを回す時間や考える時間を与えず、プレッシャーをかけてミスを誘います。センターが勇気を持って前に出ることで、相手の攻撃を分断することができます。ただし、飛び出しすぎると裏にスペースができたり、抜かれたりするリスクもあるため、隣の選手との連携が不可欠です。
守備時:外へ追い込むドリフトディフェンスの難しさ
もう一つの守り方が「ドリフトディフェンス」です。これは相手のパス回しに合わせて、自分たちも横にスライドしながら守る方法です。主に相手のアウトサイドセンターやウイングの足が速い場合に使われます。
この時、センターは相手を内側に行かせないように体を向けつつ、タッチライン(外側)へ追い込むようにコースを限定させます。我慢強くついていき、最後の最後でタッチライン際で仕留める、高度なポジショニングセンスが問われます。
世界と日本の有名センター選手を紹介

ここでは、センター ラグビーの魅力を体現している世界と日本の有名選手を紹介します。彼らのプレー動画を検索してみると、これまで説明してきた役割やスキルが実際に見られて、より理解が深まるはずです。
往年のレジェンドから、現在活躍中のスター選手までピックアップしました。
日本代表を支える頭脳派:中村亮土選手など
中村亮土(なかむら りょうと)
日本代表(ブレイブ・ブロッサムズ)のセンターとして、2019年、2023年のワールドカップで活躍。彼の特徴は「極めて高いラグビーIQ」と「強固なディフェンス」です。派手なプレーは少ないかもしれませんが、常に正しい位置にいてピンチを摘み取り、的確なパスで味方を動かします。まさに玄人好みの12番です。
ディラン・ライリー
埼玉パナソニックワイルドナイツ所属の日本代表。13番を主戦場とし、相手を一瞬で抜き去るスピードと、独特の間合いを持ったランニングが武器です。トライを取り切る能力が非常に高く、世界レベルのアタッカーとして認知されています。
世界最高峰の突破力:マア・ノヌーやバンディー・アキなど
マア・ノヌー(Ma’a Nonu / ニュージーランド)
オールブラックスの伝説的な12番。ドレッドヘアがトレードマークで、ダンプカーのような突破力で敵を弾き飛ばしました。キャリア後半にはキックやパスのスキルも向上し、完全無欠のセンターとして恐れられました。
バンディー・アキ(Bundee Aki / アイルランド)
2023年ワールドカップでも大活躍した、アイルランド代表の闘将。筋肉の塊のような体格で、相手ディフェンスラインを粉砕します。情熱的なプレーでチームを鼓舞する姿は必見です。
華麗なオフロードパスの使い手:ソニー・ビル・ウィリアムズ
ソニー・ビル・ウィリアムズ(Sonny Bill Williams / ニュージーランド)
ボクシングのヘビー級王者でもあった異色の経歴を持つアスリート。彼の代名詞は、タックルされながら片手でボールをつなぐ「オフロードパス」。身長190cmを超える巨体と長いリーチを生かした魔法のようなパスは、世界中のファンを魅了しました。センターのプレーを芸術の域に高めた選手の一人です。
今注目の若手やリーグワンで活躍する選手
長田智希(おさだ ともき)
埼玉パナソニックワイルドナイツ所属。新人賞を獲得するなど急成長中の若手センター。運動量が豊富で、攻守にわたり献身的に動き続けるワークレートの高さが魅力です。将来の日本代表の中核を担うことが期待されています。
日本のリーグワンには、ダミアン・デアリエンディ(埼玉)やサム・ケレビ(浦安)など、世界トップクラスの外国人センターも多数在籍しています。彼らのプレーを生で見られるのは日本のファンの特権です。
まとめ:ラグビーのセンターを知れば観戦がもっと楽しくなる
今回は、ラグビーの「センター(CTB)」というポジションについて、役割や特徴、12番と13番の違いなどを解説してきました。最後に要点を振り返りましょう。
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攻守の要:センターはフィールド中央で体を張り、攻撃の起点作りと守備の防波堤となる重要なポジション。
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12番(インサイド):司令塔(SO)を補佐し、ゲームメイクとフィジカルな突破を担う。
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13番(アウトサイド):広いスペースでスピードを活かし、トライを狙うチャンスメーカー。
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万能性が鍵:パス、キック、ラン、タックルと、ラグビーに必要なすべてのスキルが高いレベルで求められる。
センターは、トライを取るウイングのように目立つこともあれば、フォワードのように泥臭い仕事をすることもあります。しかし、彼らが体を張って作ったスペースや、一瞬の判断で通したパスが、チームの勝利を決定づけているのです。
次にラグビーの試合を見るときは、ぜひ背番号12と13に注目してみてください。「今のタックルで流れが変わった!」「あの囮の動きが効いていたな」と気づけるようになれば、ラグビー観戦はもっと奥深く、楽しいものになるはずです。
